アレクサンドル・スクリャービンの作品の特徴及び評価。おすすめ代表曲3選

出典:[amazon]Scriabin Edition

「アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービン(1872-1915)の音楽とは?」と問われて「前衛的な音楽」と答える方は多いのではないでしょうか。センセーショナルな光るピアノ、ロシアン・アヴァンギャルドーの先駆けともいえる調性離脱への試みなど、スクリャービンは独特な世界観と旋律を生み出してきました。しかし、初期の頃はまだ斬新さの欠片もなく、ショパン的な表情豊かなメロディーを駆使した曲を作っていました。
今回は、スクリャービンの作風の変化を追うと共に、その時代の代表曲についてもご紹介していきます。

スクリャービンの作風

スクリャービンの作風は、学生時代から晩年にかけて大きく変化していきます。ここでは三つの区分、前期、中期、後期に分けてそれぞれの作風について解説します。

モスクワ学院時代の作風(1888-1892)

ラフマニノフと張り合っていた、学生の頃のスクリャービンは、どちらかというとピアノの練習、演奏に時間を割いていました。作曲は気の向くままにピアノ曲を中心に書いていました。

この時代に作曲されたものは、ラフマニノフの音楽にも似ていると言える、表情豊かな旋律によって成り立っているものがほとんどです。ロシアの大地を思わせる重厚感、哀愁漂う甘く切ないメロディーが絡み合って織りなす旋律は聴く者を惹きこみます

スクリャービンは、当時の教師アレンスキーと対峙してしまったことが原因で作曲科を卒業することはできませんでしたが、もしきちんと卒業していたならばピアニストではなく作曲家に早くからなっていたかもしれません。

ワーグナーに陶酔していた頃の作風(1894-1907)

愛人と共にスイスに移り住んだスクリャービンは、西ヨーロッパの音楽にどっぷり浸かります。当時名声を手にしていたワーグナー音楽は特にスクリャービンに影響を及ぼし、中期作品のほとんどにワーグナー的要素が見て取れます。

ワーグナーの持つ官能的な陶酔感を全面に出しながら、和音を巧みに用いて響きの多様化を図り、独自の世界観を作り上げていきます。

斬新さと前衛的な音調を極めた頃の作風(1907-1915)

1905年にブラヴァツキーの提唱する神智学に出会い、また作風が一気に変化していきます。
ワーグナー音楽を更に押し上げ、神との合一を図る、そんな音楽を模索しました。その結果が調性離脱という境地であり、独自の和声語法によって神秘主義的な芸術感を作り上げました。
調整離脱から生み出される和音組は不協和音がメインとなるため、ラフマニノフやチャイコフスキー的音楽に慣れ親しんだものには、なかなか受け入れられませんでした。

死後50年の時を経て評価された作曲家

古すぎると批判されたラフマニノフに対し、新しすぎると批判されたのがスクリャービンでした。特にスクリャービンは、まだまだこれから自分の音楽を確立するという時にこの世を去ってしまったので、その作品が評価されるまでには大分時間を要しました。

批判と再評価

スクリャービンが43歳の若さでこの世を去った後の1920年代は、前衛的な音楽も出てきつつありますが、それでもスクリャービン音楽は斬新すぎる、奇妙であると批判されっぱなしでした。しかし、そこから50年ほど経ち、前衛的な音楽もすっかり受け入れられるようになると、スクリャービンの音楽も前衛主義に先駆けた実験的音楽として再評価されるようになります。近年では、ロスラヴェツなどロシア・アヴァンギャルドの作曲家たちにも大きな影響を与えたということで注目されています。

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スクリャービンが目指した音楽

スクリャービンは、全ての芸術と自然を音楽と融合させ、観客も参加して音楽を作る、そんな作品作りを目指していました。その実験的試みの代表例が交響曲<<プロメテ―火の詩>>に登場する光るピアノです。
音楽とは本来、目を閉じ耳で聴き、心で感じ楽しむものでした。しかしスクリャービンは、絵や踊りといった芸術を楽しむ要素、すなわちビジュアルも音楽に取り入れようと考えたのです。

未完に終わってしまっていますが、最晩年には<<神秘劇>>という壮大なプロジェクトを用意していました。これは、<<プロメテ>>で実験的に用いた色光ピアノを主に用い、さらに舞踏、芳香、美術までも取り入れ、演奏家と聴衆も巻き込んだ秘儀の一大イベントを成し遂げようとしていたのです。完成していたら、非常にユニークな、新しい音楽になっていたことは間違いなさそうです。

スクリャービンのおすすめ代表曲3選

スクリャービンの作風は時代と共にどんどん変化していきました。今回は前期、中期、後期の作風の区分に応じて代表的な曲をご紹介します。

前期作品<<幻想ソナタ>>

学生時代に作られた<<幻想ソナタ>>はピアノソナタ第2番の表題です。ショパン的なメロディーを好んで用いていた頃の作品なので、非常に抒情的で、豊かな旋律が美しい調べを引き出します。海からインスピレーションを得て作られた作品で、水面の美しさや、岸に波打つ激しい波の様子が見事に描かれています。

中期作品<<神聖な詩>>

<<神聖な詩>>とは、交響曲第3番(Op.43)の作品の標題です。1903年から1904年にかけて作曲され、1905年のパリで初演されました。

ロシア象徴主義の神秘主義的思想に傾倒し始めたころの作品で、一つの転換期的作品とも言えるものです。

全三楽章からなるこの曲は、第一楽章を<<闘争>>、第二楽章を<<官能的快楽>>、第三楽章を<<神の戯れ>>とし、まさにスクリャービンの思考の変化、これまでの人生を具現化している作品といえます。

後期作品<<プロメテ 火の詩>>

スクリャービン作品の中でもかなり有名なものが<<プロメテ 火の詩>>(1909-1910)でしょう。これは管弦楽曲ですが、光るピアノ、合唱も混ぜた壮大な曲となっています。

色光ピアノとは、12鍵盤のそれぞれを押すと12の色光が発せられる装置で、音と光を結びつけたミクストメディアの先駆けともいえる試みでした。

後期作品によく登場する神秘和音(ハ―嬰ヘ―変ロ―ホ―イ―ニの構成を持つ和音)は、この<<プロメテ>>の中で頻繁に用いられることから「プロメテ和音」と呼ばれるようになります。

まとめ

ショパン風からワーグナー音楽へと変化し、そこから印象主義的・神秘主義的音楽へと発展させたスクリャービンの音楽は、他に類を見ないぐらい変化に富んでいるといえます。特に初期作品と晩年作品を聴き比べると、同じ作曲家のものとは思えないぐらいの違いがあります。
スクリャービン作品は苦手という方も多いですが、作風の変化を追って聴いてみると意外と「面白い!」と思えるかもしれません。是非聴き比べてみてください。

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>>アレクサンドル・スクリャービンってどんな人?その生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?

>>アレクサンドル・スクリャービン ピアノソナタ第2番「幻想ソナタ」エチュード「悲愴」の解説。分析。聴きどころや難易度は?

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