出典:[amazon]TVアニメ『ガールズ&パンツァー』オリジナルサウンドトラック
アニメ『ガールズ&パンツァー』シリーズでBGM・劇中曲として使用されているクラシック楽曲について、作品内容との関連性や演出効果なども含め紹介・解説しています。
(文字数の関係で、作品概要やその内容・キャラクター、各楽曲についての情報はかなり省略しています。ご了承ください)
なお、この記事では「サウンドトラック」という言葉を、「『物語の世界で登場人物たちにも聞こえる音楽』ではない、作品の視聴者にしか聞かされない音楽」という意味で使用しています。
※作品の内容に関するネタバレを含みます。
作品概要
2012年にテレビアニメシリーズが放送されて以降、劇場版・OVAなど様々なメディア展開が行われています。執筆現在(2022年1月)はシリーズ完結編となるOVA『ガールズ&パンツァー 最終章』が順次発売中です。
音楽的特徴
『ガールズ&パンツァー』シリーズでは、浜口史郎氏作曲によるオリジナルBGMだけでなく、本記事で紹介するクラシック楽曲をはじめとした多くの既存曲がBGM・劇中曲として用いられています。
特に、本作に登場する学校にはそれぞれイメージ国があり、それに合わせて各国の軍歌や行進曲・民謡などが各校のテーマ曲的に流れるシーンが多くあります。その集大成的な形として、劇場版では各校のテーマ曲がメドレーとなって流れる中、かつてライバルとして戦ったチームが次々助っ人として現れるというシーンがあります。
また、『最終章』第2話では、トーナメントを戦う各チームの様子が描かれるシーンでもメドレー方式が用いられており、ある種イデー・フィックス的な楽曲の使い方がされているといえるでしょう。
使用楽曲と使用箇所の一覧
ここでは、クラシックの楽曲に限らず、劇中曲・BGMとして用いられている既存の楽曲を一覧として掲載しています。
なお、いわゆる「クラシック音楽」のレパートリーに分類される楽曲は実は多くなく、本記事では表に★マークをつけた3曲に絞って解説しています。
作曲家/分類 | 曲名(カッコ内は使用部分) | 使用話数 |
J.シュトラウスⅠ世 | ★ラデツキー行進曲
21-52小節(省略あり) |
テレビシリーズ
第2話 |
J.シュランメル | ウィーンはいつもウィーン | テレビシリーズ
第2話 |
アメリカ民謡 | ジョニーが凱旋するとき | テレビシリーズ
第2話 劇場版 |
イギリス軍行進曲 | ブリティッシュ・グレナディアーズ | テレビシリーズ
第4・5.5話 劇場版 |
アメリカ民謡 | リパブリック讃歌 | テレビシリーズ
第4・5話 劇場版 最終章 第3話 |
J.P.スーザ | アメリカ野砲隊マーチ | テレビシリーズ
第6・10.5話 |
P.チャイコフスキー | ★『くるみ割り人形』より
「行進曲」 (67小節-曲の終わりまで |
テレビシリーズ
第8話 |
P.チャイコフスキー | ★『くるみ割り人形』より
「金平糖の精の踊り」 (曲の最初から32小節まで) |
テレビシリーズ
第8話 |
M.ブランテル | カチューシャ | テレビシリーズ
第8・9話 劇場版 |
M.レールモントフ | コサックの子守唄 | テレビシリーズ
第9話 |
永井建子 | 雪の進軍 | テレビシリーズ
第9話 OVA 第5話 |
L.クニッペル | ポーリュシカ・ポーレ | テレビシリーズ
第9話 |
H.ニール | エーリカ | テレビシリーズ
第10・10.5話 劇場版 |
ドイツ行進歌 | パンツァー・リート | テレビシリーズ
第11話 劇場版 |
イタリア歌謡 | フニクリ・フニクラ | OVA(アンツィオ戦) |
イタリア軍歌 | Le fiamme nere | OVA(アンツィオ戦) |
ロシア民謡 | 一週間 | 劇場版 |
イングランド民謡 | 埴生の宿 | 劇場版 |
フィンランド民謡 | サッキヤルヴェン・ポルッカ | 劇場版
最終章 第3話 |
フランス語の童謡 | La chanson de l’oignon | 最終章
第1・2話 |
石田一松 | 酋長の娘 | 最終章
第2話 |
J.L.ピアポント | ジングルベル | 最終章
第3話 |
シーンごとの解説
「ラデツキー行進曲」
使用シーン
大洗女子学園の学園艦艦内に存在する戦車グッズショップの店内BGMとして流れている。
シーン内容との関連など
シリーズではじめて既存の曲が使われたのがこのシーンです。作中の設定としては戦車ショップの店内BGMとして流れているだけですが、はじめて使われるクラシック楽曲により、長らく戦車道が廃止されていた大洗女子学園の多くの人々、またそれまでの人生で戦車と縁がなかった沙織や華にとって、戦車というものが「昔のもの」「遠いもの」であるということを表現する一助となっています。
また、楽譜を参照しながら視聴すると、曲をそのまま流しているのではなく、数小節飛んでいる箇所があることに気付きます。これは作中で数秒から数十秒時間が進んでいて、その間がシーンとしては省略されているのではないでしょうか。
『くるみ割り人形』より「行進曲」
使用シーン
ダージリンとカチューシャの会談シーン。部屋のBGMとしてこの曲が流れている。
シーン内容との関連など
この回で戦うことになるプラウダ高校のイメージ国はロシア。そのチームの隊長と副隊長の初登場というシーンで、ロシアの代表的な作曲家チャイコフスキーの楽曲が用いられています。
おそらく来客とのティータイムという場のため、もてなす側のカチューシャないしはノンナによって選曲されたと思われます。
原曲は子供たちによる踊りのシーンであり、見た目だけなら幼い子供に見えるカチューシャの、大切な試合を前に気楽に構えている様子を演出するのに役立っています。また、この楽曲の明るく堂々とした響きは、昨年の優勝校というプラウダ高校の風格を醸し出すのにも一役買っているのではないでしょうか。
『くるみ割り人形』より「金平糖の精の踊り」
使用シーン
大洗女子学園とプラウダ高校の試合前、ノンナを連れたカチューシャが大洗チームを訪れるシーン。
シーン内容との関連など
雪原という相手チームの得意とするフィールドで戦うことになるみほ達の状況と、クリスマスに不思議なお菓子の国に招かれる、という『くるみ割り人形』のストーリーがリンクしているといえるでしょう。
また、「金平糖の精」はお菓子の国の女王であり、プラウダ高校の隊長であるカチューシャの(みほ達にとっての)初登場という場面を演出するのに効果的に用いられています。
『くるみ割り人形』は、クラシック音楽のジャンルではじめてチェレスタを用いたことが大きな特徴のひとつといえます。チェレスタの繊細で可愛らしい響きが、雪原という舞台やカチューシャの小柄で愛らしい外見を表しているようです。また、その後すぐに出てくる管・弦楽器の少し不穏な響きは、その見た目に反して暴君のように振る舞うカチューシャの性格とのギャップを引き立たせています。
まとめ
本作品は、既存の楽曲とオリジナルのサウンドトラックの使い分け、選曲やその使い方が巧みで、それぞれの学校やキャラクター、シーンを演出するのに大きな効果を発揮しています。
執筆時点では未完結ですが、今後もストーリーと共に、どんな音楽がどんな風に用いられるのかにも注目していきたい作品です。
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