出典:[amazon]シン・エヴァンゲリオン劇場版
アニメ映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でBGMとして使用されているクラシック楽曲について、作品内容との関連性や演出効果なども含め紹介・解説しています。
(文字数の関係で、作品や各楽曲についての情報はかなり省略しています。ご了承ください)
※作品の内容に関するネタバレを含みます。
作品概要</h2
1995年にテレビアニメが放送開始され、一大ブームとなった『エヴァンゲリオン』シリーズは、その後劇場版、漫画版、ゲームほか様々な媒体で展開されました。1998年公開の劇場版でストーリーは一度完結しましたが、2007年からは新作となる「新劇場版」シリーズ4作が順次公開され、本作はその完結編として2021年に上映されました。
本シリーズではテレビシリーズ終盤からたびたびクラシック楽曲がBGMとして用いられており、シリーズの特徴のひとつとなっています。
使用楽曲の一覧
作中で使用された、クラシックを含めた既存の楽曲を一覧にしています。
本記事では、この中からクラシック音楽に分類される2曲(曲名に★印)について紹介・解説しています。
作曲者 | 曲名 |
J.S.バッハ | ★カンタータ147番『心と口と行いと生活で』より
「主よ、人の望みの喜びよ」 |
米山正夫 | 真実一路のマーチ |
いずみたく | 世界は二人のために |
吉田拓郎 | 人生を語らず |
津島利章 | 激突!轟天対大魔艦 |
讃美歌 | もろびとこぞりて |
W.A.モーツァルト | ★モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」 K.618 |
松任谷由実 | VOYAGER〜日付のない墓標 |
音楽的特徴
本シリーズにクラシックの楽曲が(作中で流れているのではなく映像作品の)BGMとして用いられる場合、人の声による歌が入っているもの、または元々は歌のある楽曲の器楽編曲版が用いられるという法則があります。旧劇場版にて用いられたバッハの管弦楽組曲第3番より「Air」だけは例外ですが、これも曲名の意味は「歌」(「アリア」の英訳)となっています。
<h2シーンごとの解説
1「主よ、人の望みの喜びよ」
使用シーン
本編開始前に流れる、庵野監督編集による新劇場版シリーズ3作のダイジェスト映像「これまでのエヴァンゲリオン」。
シーン内容との関連など
前述の通り、本シリーズではテレビシリーズ終盤からクラシックの楽曲がBGMとして印象的に用いられており、作品の特徴ともなっています。そのため、シリーズを振り返るダイジェスト映像のBGMとしてふさわしいと考えられたのではないでしょうか。
また、シーンごとにBGMをあてるのではなく、ダイジェスト映像全体に対して1つの、それも全体を通じてあまり雰囲気の変わらない穏やかな曲を流し続けることで、淡々とストーリーを思い出してもらう、という効果もあるのではないかと考えられます。これから始まる、感情の大きな動きを伴う新しい作品を見る前に、3作品分の感情の動きを追体験して疲れてしまわないように、という配慮があるのではないでしょうか。
「主よ、人の望みの喜びよ」という曲は旧劇場版の「第26話」というべき部分でも使われたことがあり、その際はピアノソロのアレンジが使われていました。
本シリーズでは、人類と使徒という異なる生き物同士の戦い、そして自分と他者という異なる存在が共に生きるなかで生じる痛みや苦しみ、その克服というテーマが描かれています。その「異なる2つのもの」「異質なもの」の象徴として、鷺巣氏作曲によるオリジナルBGMに対してのクラシック楽曲、そして器楽曲の多いクラシックの中である意味特殊な楽器である「人の声と言葉(歌詞)」が用いられていると考えられます。
旧劇場版では、進行する人類補完計画のなか、自分と他者がひとつに混じり合い、その中で対話を行うというシーンでピアノアレンジされた「主よ、人の望みの喜びよ」が流れます。様々な楽器と4部合唱によって演奏される楽曲の、ピアノソロという1人の奏者によって演奏できる形態へ編曲されたものを流すことで、「他者とひとつになっている」という状況を音楽的に表しているのではないでしょうか。
それに対し、今作では器楽と合唱によるバージョンが流れており、人と使徒、人と人の戦いや関わりの物語を振り返るのにふさわしいといえるでしょう。
2「アヴェ・ヴェルム・コルプス」
使用シーン
「マイナス宇宙」におけるシンジとカヲル、またカヲルと加持の対話のシーン。
シーン内容との関連など
このシーンとその前後のシーンでは、シンジと他のメインキャラクター3人(アスカ・カヲル・レイ)の対話とそれぞれの救済・退場が描かれます。
アスカのシーンでは鷺巣氏作曲による器楽のBGM、カヲルのシーンではクラシックの合唱曲、そしてレイのシーンではBGMなしとなっており、それぞれのシーンが音楽的に区別され、雰囲気を変えることに役立っています。
このうち、カヲルのシーンでクラシックの楽曲が使われたのは、やはり彼の登場したテレビシリーズ第24話や新劇場版Qにおいて、ベートーヴェンの交響曲第9番が、彼との出会いと別れの象徴として印象的に用いられていたからではないでしょうか。
一方で同じ楽曲にしなかったのは、シンジの成長によって2人の関係性にも変化が訪れたからではないかと筆者は想像します。
また、この楽曲の歌詞は人々を救うために十字に架けられたキリストとそのからだを賛美するもので、「カヲルにとっての救済」を描くこのシーンと「救済」という共通した要素をもっているといえるでしょう。ちなみに少し前のシーンでは讃美歌「もろびとこぞりて」が用いられており、こちらの歌詞は人々を救うキリストの到来を喜ぶものとなっています。
まとめ
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で使われたクラシック楽曲を、過去のシリーズ作品との関連も考察しつつ紹介してきました。
25年以上をかけて完結を迎えた「エヴァ」シリーズですが、そんな今だからこそ、音楽に注目しつつ見直してみるのも良いのではないでしょうか。
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