クラシック音楽の1ジャンルである「ドイツリート(ドイツ歌曲)」について、簡単に解説していきます。
ドイツリート(ドイツ歌曲)とは?
「ドイツ語の『詩』を歌詞にして、あとから曲をつける形で作曲される作品」をさす言葉です。
クラシック音楽のなかで、人の声で演奏されるジャンルを「声楽(せいがく)」といい、ドイツリート(ドイツ歌曲)は、そのなかのいちジャンルです。
「リート」とは、ドイツ語で「歌」「歌曲」を意味する言葉です。
つまり、「ドイツリート」と「ドイツ歌曲」は同じ意味ということです。
「歌曲」とは、文学作品としての「詩」を歌詞に使って作曲されるジャンルです。
その中で歌詞にドイツ語の詩が使われているものが「ドイツ歌曲」です。
同じようにイタリア語の詩が使われた「イタリア歌曲」、フランス語の詩が使われた「フランス歌曲」などのジャンルもあります。
楽器編成は、声楽1人とピアニスト1人の2人で演奏するためのものが多いです。
ですが、中には
- 声楽パートが重唱(複数人で歌う)の曲
- ピアノパートが連弾(1台のピアノを2人で弾く)や2台ピアノ(ピアノを2台並べてそれぞれ1人のピアニストが弾く)の曲
- 声楽とピアノ以外に別の楽器が必要な曲
- ピアノではなくオーケストラがついている曲
などもあります。
1曲あたりの演奏時間は2〜5分程度のものが最も多いです。
どんな特徴がある?
声楽というジャンルのなかで一番有名な「オペラ」と比べると、以下のような違いがあります。
ドイツリート | オペラ | |
主な楽器編成 | 声楽 1人
ピアニスト 1人 |
声楽(ソリスト)
数人から十数人 合唱 オーケストラ |
1作品あたりの演奏時間 | 2〜5分のものが多い | 1〜3時間のものが多い |
歌詞 | 詩 | 物語 |
同じ曲を違う音域の歌手が | 歌える | 歌えない |
想定される会場のサイズ | 小さい(〜500席程度) | 大きい(〜3000席程度) |
舞台セット・衣装 | ない | ある |
体を動かしての演技 | ない | ある |
指揮者 | いない | いる |
オペラ歌手には、数十人のオーケストラを超えて、数千人の聴衆に届く音量と通る声、そしてはっきりした(より強調した)発語が求められます。
更に、舞台上での衣装や小道具の魅せかた、動きによる演技などの技術も必要になります。
それに対してドイツリートでは、オペラよりも小さな会場で少ない聴衆のために歌うことが多いです。
そのため、オペラよりも小さい音量、細かい発音の違いまで聴衆に伝えることができます。
逆に言えば、大きな音から小さな音までを使い分けるコントロール能力と、より繊細な発音能力が求められます。
また、舞台セットも、衣装も、動きもないので、自分なりの楽曲への理解や解釈、ピアニストとの緊密な連携などによる純粋な「音楽だけ」で表現を構築しなければなりません。
他に特徴的な点として、オペラでは「この役はソプラノ歌手が担当する」といったように役に対して音域が決まっているのに対し、歌曲ではキーを変えることで、同じ楽曲を女性でも男性でも、声が高くても低くても歌うことができます。
同じ曲を様々な歌手の演奏で「比べて楽しむ」幅が広いのも、歌曲の良いところです。
有名な楽曲
シューベルト作曲 「野ばら」
有名な文豪ゲーテの詩に、ドイツ歌曲というジャンルを確立したともいわれる作曲家シューベルトが曲をつけることで生まれた楽曲です。
〈歌詞の概要〉
荒野に咲く1輪のばらを少年が見つけ、彼はとても喜んでばらを摘もうとする。
ばらは「あなたが私を忘れられないように棘で刺す」というが、抵抗もむなしく手折られてしまう。
童話的な微笑ましい情景を描いた歌曲として聴くこともできますが、この歌詞には裏の意味がある、ともいわれています。
それは、「ばら=女たち」「少年=男たち」の例えであり、「女たちよ、悪い男には気をつけなさい」といった教訓的内容である、というもの。
同じくシューベルトが作曲した「鱒(ます)」という歌曲も、釣り人が鱒を釣り上げる様子が描かれていますが、似たような教訓が含まれrている、という説もあります。
こういった「深読み」ができるのも、ドイツ歌曲の面白いところです。
メンデルスゾーン作曲 「歌の翼に」
インストゥルメンタルアレンジでBGMなどに使われることも多く、耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
この曲をはじめ、メンデルスゾーンは聴きやすく流麗な旋律を多く書いた「メロディメーカー」とも呼ばれています。
〈歌詞の概要〉
歌の翼にのせて、愛する君をガンジス河のほとりへ連れてゆこう
そこに広がる美しい風景のなか、2人で寝そべって幸せな夢をみよう
この詩の中には「ガンジス河」が出てきますが、そのほとりには「やしの木が生え、ガゼルが跳ね、バラやすみれが咲いている」と描写されています。
この詩を書いたハイネには東洋世界への憧れがあったようで、おそらくこの描写は、ハイネが思い描く「東洋の美しい情景」なのではないかと思われます。
ハイネは他にも東洋世界へのロマンを思わせる「蓮」という詩を書いており、こちらはシューマンの名作歌曲の歌詞となっています。
シューマン作曲「献呈」
多くの歌曲を作った作曲家シューマンが結婚の日に、妻となる女性に贈った歌曲集『ミルテの花』の、1番はじめに収められている作品です。
〈歌詞の概要〉
君は私の魂、心、喜びであり苦しみ。君は私の生きる世界そのもの、私の空で私のお墓。
君は私の安らぎ、天から授かった人。君の愛が私をより良き存在にしてくれる。
シューマンの結婚への喜びや、妻クララへの愛が溢れ出るような名曲です。
ちなみに、彼の妻クララ・シューマンもまた優れた作曲家であるとともに有名なピアニストでもありました。
クララ作曲の歌曲も、優れた作品が現代にまで遺っています。
最後に
ドイツリート(ドイツ歌曲)というジャンルの概要についておわかり頂けたでしょうか。
もしよろしければ、動画で、CDで、或いは演奏会を訪れてドイツリートの世界に触れてみてください。
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