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ドイツロマン派音楽の流れをくみ、多くの優れた歌曲を作曲したフーゴ・ヴォルフ。ヴォルフの音楽家としての人生は必ずしも恵まれてはいませんでしたが、その優れた作品は20世紀の音楽家へ引き継がれました。彼が作曲した作品の多くは詩人の作品をモチーフとした歌曲に集中していますが、少ないながらも室内楽においても隠れた名曲を残しています。
そこでこの記事では、ヴォルフによる室内楽『イタリア風セレナーデ』と最後の歌曲集である『ミケランジェロの詩による3つの歌曲』を紹介します。どちらも20世紀に残る名曲ですので、ぜひ参考にしてください。
フーゴ・ヴォルフとは?
フーゴ・ヴォルフ(1860-1903)は、オーストリア帝国の一部アシュタイアーマルク公国に生まれました。父は革細工職人だったものの、熱心なアマチュア音楽家でもあったため、ヴォルフは4歳で父からヴァイオリンとピアノの手ほどきを受けます。幼少期のヴォルフは神童として早くからその名が知れ渡り、やがてウィーン音楽院に進学。作曲家の道を志します。しかし生まれながらの反骨精神が災いしたのか、ウィーン音楽院を退学処分となり、以降は独学で作曲を学びました。
そんなヴォルフに大きな影響を与えたのが『パルシファル』や『タンホイザー』の作曲者として知られるリヒャルト・ワーグナーでした。ワーグナーと出会ったヴォルフは、熱心にワーグナー作品を研究し、のちに自身のリート作品に「ライトモチーフ」の手法を取り入れるほどワーグナーに心酔します。
また、音楽教師や評論家としても手腕を発揮したヴォルフは辛口評論家として、多くの音楽家に恐れられる存在として注目を集めます。一時期は精神的な落ち込みにより作曲から遠ざかったものの、後年は優れた歌曲集を多く作曲し、1903年、42歳という若さでこの世を去りました。ヴォルフが残した歌曲は20世紀においても高く評価されており「ドイツリートの頂点」と称されています。
『イタリア風セレナーデ』について
上述した通り、ヴォルフは歌曲の分野において大きな功績を残しました。しかし少ないながらも、室内楽でも作品を残しています。そして彼の室内楽を代表する作品が本作『イタリア風セレナーデ』です。ヴォルフの室内楽及び管弦楽のための作品は非常に少なく、本作以外に完成させた作品は交響詩『ペレテレジア』のみです。
本作は1887年当初、弦楽四重奏のためのセレナーデとして作曲が開始されましたが、1890年に現在のタイトルに改訂されました。ちなみに「セレナーデ」とは、恋人のために窓の下で奏でる音楽を意味します。
作曲期間がとても短いことでも有名で、ヴォルフは本作をわずか2日で書き上げたそうです。作品は8分の3拍子のロンド形式で構成され、演奏時間は7分程度の小規模な作品となっています。ヴォルフは多くの詩人からインスピレーションを受けており、本作『イタリア風セレナード』もヨーゼフ・アイヒェンドルフの詩に影響を受けたものと考えられています。
聴きどころは?
非常に小規模の弦楽四重奏作品であるものの、主題の軽やかさと変化に富んだ展開は、ヴォルフの才能の表れと言えるでしょう。この作品の主題について、音楽評論家のロバート・ガトマンは「おいしいイタリアン・セレナーデの本質は、ロマンティックな情緒と嘲笑的なウィットのアンチテーゼである」と述べ、本作を高く評価しました。冒険の始まりを告げるような主題は、一度聴いたらきっと強く印象に残ることでしょう。
本作は数少ないヴォルフの管弦楽曲ではありますが、たびたびレコーディングされており、弦楽四重奏曲のアンコール曲としても取り上げられることの多い作品です。
『ミケランジェロの詩による3つの歌曲』について
本作はヴォルフが亡くなるおよそ5年前の1897年に作曲された歌曲集です。これ以降ヴォルフは重度の精神疾患に苦しんだため、彼にとっての最後の作品となりました。タイトルのミケランジェロとは、ルネッサンス期の大美術家で「ダビデ像」や「ピエタ」の作者としても知られるミケランジェロのことです。
美術家として知られるミケランジェロですが、それ以外にも文筆家や詩人としても活躍しており、本作はロベルト=トルナウによるドイツ語訳の詩に作曲が施されました。
タイトルにある通り、本作は3つの歌曲で構成され、それぞれのタイトルは以下の通りです。
第1曲「しばしば私は思う」
第2曲「生あるものはすべて滅ぶ」
第3曲「私の魂は待望の神の光を感ずる」
詩はヴォルフ本人によって選ばれ、いずれも自らの死を暗示させるような作品が選ばれている点が興味深いところです。なかでも第2曲の歌詞「すべて、すべては滅ぶ」「時は流れ、太陽は全ての物が消え去るのを見ている」では、ヴォルフが辿りついた人生の境地が伺えます。
まとめ
ヴォルフの2つの代表作を解説しました。聴いていただくとお分かりのように、どちらの作品も美しく、耳に馴染みやすい名曲だと思います。激しい気性で知られたヴォルフですが、その作品からは彼の寂しさや悲しさ、そして音楽そのものへの崇高な精神が垣間見られます。
これまでヴォルフの作品を聴いたことがなかった方も、この記事を機会にぜひ彼の美しいメロディーを味わってみてはいかがでしょうか。
>>フーゴ・ヴォルフってどんな人?出身やその生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?
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