ヨハン・シュトラウス2世「美しき青きドナウ」「皇帝円舞曲」の解説・分析。楽曲編成や聴きどころは?

出典:[amazon]J.シュトラウスII世:歴史的演奏のアンソロジ-第1集

「ウィーンのもう一人の皇帝」と称され、ブラームスやワーグナーなどの同時代の作曲家から尊敬されていたヨハン・シュトラウス2世(以下シュトラウス2世)。シュトラウス2世はウィンナ・ワルツを世に広め、ヨーロッパ、ロシア、アメリカなど西洋諸国で大きな成功を収めました。そんなシュトラウス2世をもっとも象徴するワルツが「美しき青きドナウ」と「皇帝円舞曲」です。そこで今回は、この2曲について解説します。

「美しき青きドナウ」について

1867年に作曲された合唱用のウィンナ・ワルツです。シュトラウス2世の作品のなかでも、もっとも演奏機会の多い作品であり、現在でもコンサートなどで頻繁に演奏されています。「ウィーンの森の物語」と「皇帝円舞曲」とを合わせて「3大ワルツ」と呼ばれ、とくに「美しき青きドナウ」はオーストリアにおける「第2の国歌」として知られています。

初演はウィーンの「ディアナザール」で行われました。しばしば、初演は不評だったと言われますが、当時のフレムデンブラット紙(新聞)が「ワルツは本当に素晴らしかった。この曲は大喝采を受けた」と書いていることから、成功を収めたことがうかがえます。不評だったと言われる理由として「アンコールが1度だけだったのがシュトラウス2世の気に入らなかったため」と考えられています。また「ローエングリン」などの作品で知られるワーグナーは、シュトラウス2世の作品のなかで「美しき青きドナウ」をもっとも好んだそうです。

また、ブラームスのエピソードも有名です。ある日シュトラウス2世の娘アリーチェからサインを求められたブラームスは、アリーチェが持っていた扇に「美しき青きドナウ」の冒頭の数小節を書き「残念ながら、ヨハネス・ブラームスの作品ではないけどね」と書き添えたそうです。

パリ万博で演奏された際には皇帝ナポレオン3世も賞賛し高い評価を得ました。やがて「美しき青きドナウ」の評判はロンドンやアメリカに伝わり、ボストンで開かれた音楽祭では10万人の聴衆の前で演奏されたという伝説が残っています。そのときの構成は2万人の歌手と1000人のオーケストラ奏者がいたそうです。

楽曲編成は?

「序奏・5つのワルツ・後奏」で構成されています。各テーマは次の通りです。

序奏・・・アンダンティーノ
第1ワルツ・・・ニ長調/2部形式
第2ワルツ・・・ニ長調/3部形式
第3ワルツ・・・ト長調/2部形式
第4ワルツ・・・へ長調/2部形式
第5ワルツ・・・イ長調/2部形式
後奏

聴きどころ

静かに始まる序奏はドナウ川の夜明けを連想させ、美しい1日の始まりを予感させるようなメロディーです。どのワルツも聴きやすく、全体を通して物語性のある作品となっています。この作品は単に人気があるだけではなくオーストリアという国を象徴する作品であることも知っておくと、より一層理解が深まるかもしれません。

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「皇帝円舞曲」について

1888年に作曲されたシュトラウス2世晩年のワルツです。上記の「美しき青きドナウ」と共に「3大ワルツ」の1つで「カイザーワルツ」としても知られています。晩年のワルツのなかで、もっとも人気のある作品です。ベルリンの「ケーニヒスバウ」という新しいコンサートホールの「柿落とし(こけらおとし)」のために作曲されました。当初シュトラウス2世は作曲を躊躇していましたが、5夜にわたる祝典演奏会の最初に指揮をするという名誉があったため、作曲を引き受けたと言われています。

作曲当初は「手に手をとって」というタイトルだったそうです。その理由は「ケーニヒスバウ」の演奏会にオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフとドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の同席が予定されており、両国の親善の意味が込められていたためです。「ケーニヒスバウ」での初演は100人編成という大所帯であったものの大成功を収め、瞬く間にヨーロッパ全土へ評判が広まりました。

この作品について友人のブラームスは次のように述べて絶賛しています。

「これは管弦楽法がすばらしいので、見事に鳴るんだ。しかし結局、魅力の秘密なんか考えてもしょうがないな」

現在でも、ウィーンフィルによるニューイヤーコンサートの定番曲です。

楽曲編成は?

「序奏・4つのワルツ・後奏」で構成され、各テーマは次の通りです。
序奏・・・テンポ・ディ・マルチア ハ長調/行進曲風
第1ワルツ・・・ハ長調/2部形式
第2ワルツ・・・変イ長調/2部形式
第3ワルツ・・・ハ長調/2部形式
第4ワルツ・・・へ長調/3部形式
後奏・・・第1ワルツの導入から第3ワルツの旋律へ

聴きどころ

静かに始まる序奏から次第に管弦楽が大きくなり、第1ワルツの堂々とした音楽へと展開していきます。そのメロディはまさに「皇帝」の姿を表現した風格であり、この作品でもとりわけ有名な部分です。そして第2ワルツでは、堂々とした風格を備えながらもメロディーに優雅さが加わります。後奏の大迫力で終わる部分は、なんとも言えない清々しさがあります。

まとめ

今回は「美しき青きドナウ」と「皇帝円舞曲」について解説しました。どちらも一度は聞いたことがあるのではないかと思います。両作品ともとても美しく情景的な作品です。ワルツとしては少し長い作品ですが、時間を感じることなく音楽に浸れるのではないかと思います。どちらも不朽の傑作ですので、お時間のあるときにゆっくりと聴いてみてください。

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