出典:[amazon]アルノルト・シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」 Op.5/ヴァイオリン協奏曲 Op.36
アルノルト・シェーンベルクは、無調音楽を発展させ十二音技法を確立した20世紀を代表する作曲家の1人です。その技法は弟子のヴェーベルンやベルクへと継承され、「新ウィーン楽派」と呼ばれるまでになりました。今回は、シェーンベルク後期の代表作である「ヴァイオリン協奏曲」と「ワルシャワの生き残り」を解説していきます。とくに「ワルシャワの生き残り」は、シェーンベルクが死去する4年前に作曲された最晩年の作品であり、ユダヤ人であったシェーンベルク自身の思いが込められた名作です。
「ヴァイオリン協奏曲」について
「ヴァイオリン協奏曲」は、シェーンベルクがアメリカ亡命後に作曲した後期の傑作であり、唯一のヴァイオリン協奏曲です。難曲として知られ、楽譜を読むだけでも苦労するため「完璧な演奏は不可能」と言われました。初演は1940年、ストコフスキー指揮によって演奏され、弟子のヴェーベルンに献呈されました。
静かに始まる冒頭部分から徐々に重厚感が増していき、複雑なヴァイオリンのテーマとオーケストラの掛け合いが重なる厳密な十二音技法が使用されています。とくに第3楽章のフィナーレは、ヴァイオリン独奏とオーケストラが火花を散らすように共鳴し、大きな塊となって一気に爆発するかのような展開が楽しめます。
楽器編成
一般的なオーケストラ編成となっていますが、珍しい楽器も使われています。作品内で使用されている楽器は以下の通りです。
- ヴァイオリン(独奏)
- フルート
- オーボエ
- クラリネット
- ファゴット
- ホルン
- トランペット
- トロンボーン
- テューバ
- ティンパニ
- 小太鼓/大太鼓
- タンバリン
- タムタム
- シンバル
- グロッケンシュピール
楽曲編成
3楽章構成となっています。
- 1楽章・・・ポーコ・アレグロ – ポーコ・メーノ・アレグロ – ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ
- 2楽章・・・アンダンテ・グラツィーオ
- 3楽章・・・フィナーレ アレグロ
エピソード
作曲した当初、シェーンベルクはヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツに初演を依頼したそうですが「研究するだけ無駄」や「指が6本なければ弾けない」という理由で断られたそうです。しかし、後になってハイフェッツは「やるべきであった」と後悔したという
話も残されています。
ちなみに、ハイフェッツは「ハイフェッツのあとにハイフェッツなし」とまで言われた、20世紀を代表するヴァイオリニストです。ハイフェッツに断られた代わりとして、ヴァイオリニストのルイス・クラスナーによって初演されました。
「ワルシャワの生き残り」について
「ワルシャワの生き残り」は1947年、シェーンベルクが72歳のときに作曲された最晩年の作品です。ナチス・ドイツによるユダヤ人への迫害がテーマとなっており、ワルシャワ・ゲットー(強制収容所)から生き残った男の物語が語られます。全体で7〜8分程度の短い作品で、十二音技法によって作曲されました。作品内の文章はシェーンベルク自身によって書かれ、「シュプレヒシュティンメ」と言われる「語り」の手法が採用されています。また、基本的な文章は英語、ドイツ兵のセリフはドイツ語で書かれているのも特徴です。
十二音技法によって作曲されたことで、当時の雰囲気やホロコーストでの惨状、あるいは人々の精神状態などが生々しく表現されています。また最後の合唱部分では「シェマ・イスラエル」が男声合唱によって歌われますが、この部分はヘブライ語で歌われます。
初演した当時、演奏が終わっても拍手が起きず、もう一度演奏したというエピソードが残されており、それほど当時の聴衆にとっては衝撃的な作品であったのかもしれません。
20世紀におきた悲惨な出来事を風化させない為にも、今後も演奏され続けるべき作品の一つかもしれません。
楽器・楽曲編成
楽器・楽曲編成は次のようになっています。楽曲編成が独特で、「語り手」「男声合唱」「オーケストラ」という編成です。オーケストラ編成は一般的なものですが、あまり使われない楽器も編成されています。
- 第一ヴァイオリン(10)
- 第二ヴァイオリン(10)
- ヴィオラ(6)
- チェロ(6)
- コントラバス(6)
- フルート(2)
- オーボエ(2)
- クラリネット(2)
- ファゴット(2)
- ホルン(2)
- トランペット(3)
- トロンボーン(3)
- テューバ
- シロフォン
- 鐘
- 小太鼓/大太鼓
- ティンパニ
- シンバル
- チャイム
- トライアングル
- タンバリン
- タムタム(ドラの一種)
- カスタネット
- ハープ
()内は編成数です。
まとめ
今回はシェーンベルクの「ヴァイオリン協奏曲」と「ワルシャワの生き残り」の解説をしました。どちらも円熟期の作品ですが、シェーンベルクという1人の作曲家の集大成として、大きな意味合いのある作品だと思います。ユダヤ人として生まれ、迫害を逃れるためにアメリカに渡ったシェーンベルクは、新天地アメリカで音楽家・教育者として多くの功績を残しました。シェーンベルクをはじめとする「新ウィーン楽派」の音楽は、聞く機会が少ないと思いますが、ぜひ一度ご自身で聞いて、その世界を味わってみてはいかがでしょうか。
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