[amazon]Vaughan Williams;Symphonies
近代イギリスを代表する作曲家レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ。イングランドの伝統的音楽を活かしながらも、ダイナミックにしてエネルギッシュなその作風は、祖国イギリスのみならず、世界中に広がり多くの聴衆を魅了し続けています。
旺盛な作曲意欲により、そのジャンルは多岐に渡りますが、なかでも今回紹介する『グリーンスリーブス幻想曲』と『トマス・タリスの主題による幻想曲』はヴォーン・ウィリアムズの作品の中でも白眉として現在も演奏機会の多い作品です。
そこで今回は、この2つの名曲の背景について、わかりやすく紹介します。
『グリーンスリーブス幻想曲』について
ヴォーン・ウィリアムズを最も代表する作品であり、多くの方が一度は聴いたことがあると思います。「幻想曲」とあるように、本作はイングランドの古い歌「グリーンスリーブス」を基に作曲された作品です。
「グリーンスリーブス」の起源には諸説あり、現在も研究が続けられています。一説によると「イングランドとスコットランドの国境付近で作曲された」という説や「音楽愛好家だったヘンリー8世が、後の王妃となるアン・ブーリンに送った作品」とする説など様々です(他説あり)。
本作は「グリーンスリーブス」を原曲としてヴォーン・ウィリアムズが編曲し、1934年、作曲者自身によってロンドンにて初演されました。もともとは、ヴォーン・ウィリアムズ自身のオペラ『恋するサージュン』(1928年)の第3幕の間奏曲として作曲したものを、ラルク・グリーブスが編曲を加え、独立した作品として発表したのが本作です。
演奏時間は4分30秒ほどの短い作品ですが、以下3つの部分で構成されています。
1、へ長調 レント
2、イ短調 アレグレット
3、フルート独奏
ヴォーン・ウィリアムズ自身によるピアノ独奏版もあるため、興味のある方はそちらも聴いてみることをおすすめします。
楽曲編成や聴きどころは?
楽曲編成は弦楽合奏、ハープ、フルートが基本ですが、ヴァイオリンやギター、吹奏楽版など多様なアレンジが存在します。冒頭フルートの「消えるように現れる」幻想性は、ヴォーン・ウィリアムズの巧みの真骨頂と言えるでしょう。
グリーンスリーブスの歌詞も見てみよう
起源に諸説ある「グリーンスリーブス」ですが、16世紀半ばまでは口頭で受け継がれ、17世紀にはイングランド全域に広がったとされています。イギリスの文豪シェイクスピアの喜劇『ウィンザーの陽気な女房たち』にも「グリーンスリーブス」の記述があることから、いかに本作がイングランド国民に愛されていたかが分かります。
最後に、美しいメロディーと合わせてその歌詞も見ておきましょう。
「ああ、私の愛した人はなんと残酷な人なのでしょう。
私の愛を非常にも投げ捨ててしまった。
私は長い間あなたを愛していた、
側にいるだけで幸せだった。
グリーンスリーブスは私の喜びだった、
グリーンスリーブスは私の楽しみだった、
グリーンスリーブスは私の魂だった、
あなた以外に誰がいるだろうか」
『トマス・タリスの主題による幻想曲』について
本作は1910年に作曲された作品で、ヴォーン・ウィリアムズの出世作とも言われています。グロースター大聖堂にて行われた初演は大成功を収め、ヴォーン・ウィリアムズが大きな名声を獲得するきっかけとなりました。作品は1913年と1918年の2度にわたり改訂され、現在は1918年版が演奏されています。演奏時間は16分程度です。
エリザベス朝(1558年〜1603年)を連想させるファンタジー風の作風が多くの聴衆を魅了し、今日でも演奏機会の多い作品として親しまれています。本作はトマス・タリス作曲『大教主パーカーのための詩編曲』第3曲の旋律が主題として用いられています。
タイトルのトマス・タリスとは?
タイトルにある「トマス・タリス」とはどのような人物だったのでしょうか。結論から述べると、トマス・タリス(1505年?〜1585年)は16世紀に生まれたオルガン奏者・作曲家であり、最終的なキャリアとして、王立礼拝堂のオルガン奏者まで務めた「英国音楽の父」と称される人物です。主にヘンリー8世、エドワード6世、メアリー1世、エリザベス1世が台頭したテューダー朝時代に活躍しています。
由緒ある音楽祭にて初演
上述のように、本作は1910年に書かれた作品ですが、注目すべきはその発表の機会です。この作品は、1715年から続く由緒ある音楽祭「スリー・クワイヤ・フェスティバル」のために作曲され、音楽祭にはヘンデルやハイドン、ロッシーニ、メンデルスゾーンなど錚々たる人物が名を連ねています。
その中にあって本作が大成功を収めたことで、ヴォーン・ウィリアムズはエドワード・エルガーと並び、20世紀初頭イギリス音楽を牽引する人物と目されることに繋がりました。
楽曲編成について
弦楽合奏のみで構成された珍しい構成作品です。2つの弦楽合奏に弦楽四重奏が加わる形で演奏されます。特に弦楽四重奏は「オルガン的響き」を与える効果を発揮し、作品に厚みを持たせる役割を果たしています。作品を聴いてみると、作品の幻想性も相まって、弦楽合奏のみの響きとは思えない、深みのある世界観が感じられることでしょう。
まとめ
いかがでしたか?今回はヴォーン・ウィリアムズを最も代表する作品2曲について解説しました。特に『グリーンスリーブス幻想曲』は、器楽の教科書にも登場するので、1度は聴いたことのある方も多いと思います。
「幻想曲」というだけあって、作品を聴いていると、どこか謎めいた物語の中にいる感覚を覚えた方もいらっしゃることでしょう。
今年(2022年)はヴォーン・ウィリアムズ生誕150周年記念にあたる年ですので、この記事を機会に、ぜひ他の作品にも触れてみてはいかがでしょうか。
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