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ジャン=バティスト・リュリは、バロック中期に活躍したフランスの作曲家です。貧しい粉挽屋の家に生まれながら、太陽王ルイ14世にその才能を認められ、リュリは最終的に宮廷音楽監督にまで上り詰めました。
多くのバレ(バレエ)音楽、オペラで人気を博したリュリの作風は、既存の音楽形式を踏襲しながらもフランス語に適した作品を生み出し、その形式はのちの音楽家に大きな影響を与えています。そ
こで今回は「フランス・オペラの父」、「フランス・バロックの創始者」と称されるリュリの『アルミード』と『町人貴族』について解説します。
アルミードについて
『アルミード』は1686年にパリ・オペラ座のパレ・ロワイヤルで初演されたリュリを代表するオペラです。本作はプロローグと5幕から構成され、台本は盟友フィリップ・キノーにより執筆されました。トルクァート・タッソの詩「解放されたエルサレム」をリブレットとし、作品にはリュリとキノーが考案した「音楽による悲劇」という新しい形式が採用されています。
古典的なフランス演劇にバレや歌曲、レチタティーボを取り入れた本作は、発表当時大変な人気を博し、リュリの死後も数度にわたり再演されています。友人同然だった国王ルイ14世を讃える迫力のある序曲と、第2幕第5場における女神アルミードによる独唱「ついに彼は私の力の下に」が特に有名です。
また、今年(2022年)他界したフランス映画界の巨匠・ゴダール監督による『アルミードとルノー』はリュリの『アルミード』の筋書きに基づいています。
フランス・バロックの最高傑作
『アルミード』は作曲者にとっての最高傑作のみならず、フランス・バロックにおいても重要な位置を占める作品でもあります。この作品により「音楽による悲劇」の表現を確立したリュリは、その後のフランスオペラ、さらにはヨーロッパ全体におけるオペラの技法に大きな変革をもたらしました。
日本で初公演される
コロナ禍の影響により2度の延期となりましたが、2022年12月、日本初となる『アルミード』の公演が東京都北区で行われました。日本のクラシック音楽界においてこの公演は画期的な出来事であり、これによりリュリの作品が日本でも大きく見直されることが期待されます。
町人貴族とは?
『町人貴族』は1670年に初演された全5幕からなるコメディ・バレ(バレエ)です。稀代の作家モリエールによる台本とリュリの黄金コンビによって制作されました。ルイ14世の宮廷内で行われた初演には、有名コメディ役者や音楽家が勢揃いし、大成功を収めたと言われています。
台本を手がけたモリエール本人が主人公ジュルダンを演じ、金のレースや鮮やかな羽で飾られた衣装が当時話題となりました。また、第3幕にはリュリ本人もイスラム法学者役(ムフティ)として出演したことも、人気となった理由の一つでしょう。本作には17世紀に流行していた「トルコ趣味」が盛り込まれ、「時代の流れに乗った」作品として当時の聴衆を賑わせました。
また、作品制作の経緯には興味深い話が残っています。ある日、ルイ14世に謁見を求めてトルコから大使が訪れます。しかし、謁見に訪れたトルコ大使が本物の大使でないことに気がついたルイ14世はそのことに激怒し、「トルコを貶めるために」モリエールやリュリに作品の制作を命じたというエピソードが残されています。
おもな登場人物
大金持ちのジュルダン
貴族に憧れる男。そのため貴族のたしなみである音楽やダンス、哲学を学び貴族然として振る舞うが、どこかぎこちない。娘のリュシルの結婚に反対する。
リュシル
ジュルダンの娘。恋人クレオントとの結婚をジュルダンに懇願するが、クレオントが貴族でないため、結婚を反対される。
クレオント
リュシルの恋人。一度はジュルダンに結婚を反対されるものの、従者のコビエルとともに策を弄しリュシルとの結婚を画策する。
R・シュトラウスによる改作もある
実は『町人貴族』はロマン派音楽の大家R・シュトラウスによって、フランス語版からドイツ語版へ改作されています。改作にあたっては、『チャンドス卿の手紙』などの作品で知られるオーストリアの作家ホフマンスタールが台本を担当し、R・シュトラウスが新たな音楽を施しました。
初演は、作品に劇中劇が用いられたため「内容が複雑すぎる」や「作品が長すぎる」といった批判を受け不評に終わりました。しかしその後、新たにプロローグを追加し、内容をわかりやすい1つのオペラとしたことで成功を収め、現在ではR・シュトラウスの定番曲として演奏され続けています。また、演奏会用組曲にも改訂され、1920年にR・シュトラウス本人の指揮により初演されています。
まとめ
今回はリュリの最高傑作『アルミード』と人気コメディ・バレ『町人貴族』を紹介しました。どちらの作品も、初めて耳にされた方が多いのではないでしょうか。バロック音楽を聴く機会は少ないと思いますが、この記事を機会に「フランス・バロックの創始者」であるリュリの作品に親しんでみてはいかがでしょうか。そこにはきっと新たな発見があると思いますよ!
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