サミュエル・バーバー『弦楽のためのアダージョ』『ピアノ協奏曲』の解説・分析。楽曲編成や聴きどころは?

出典:[amazon]「サミュエル・バーバー(1910-81)の歴史的録音集1935-1960」

バーバーの作品のなかでもっとも演奏機会が多く、有名な曲を一つだけ挙げるとすれば、間違いなく『弦楽のためのアダージョ』が挙げられます。その内省的で孤独を包み込むようなメロディーは、作品の発表以降、多くの人の心を捉え、現在も「アダージョの名曲」として人々に親しまれています。また数々の映画やテレビドラマなどでも使用されていることから、バーバーの名前を知らなくても、一度は聴いたことがある方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、バーバーの代名詞と言える『弦楽のためのアダージョ』と4つの協奏曲の中から『ピアノ協奏曲』について解説します。

『弦楽のためのアダージョ』について

『弦楽のためのアダージョ』は、バーバーがイタリア留学中に作曲した『弦楽四重奏ロ短調』から第2楽章を抜粋し、弦楽曲に編曲した作品です。『バーバーのアダージョ』の曲名でも知られ、バーバーをもっとも代表する作品として、高い評価を得ています。弦楽の他に、『アニュス・デイ』(ラテン語で「神の子羊」の意)と呼ばれる無伴奏合唱曲版も有名です。

1937年に作曲され、翌1938年に大指揮者アルトゥーロ・トスカニーニの指揮、NBC交響楽団の演奏により初演され大成功を収めました。「アダージョ」とは、「歩くように」という意味の音楽用語です。

この作品が作曲された当時は「前衛的・実験的音楽」作品の全盛期でしたが、バーバーは時代の流行に乗ることはせず、独自のロマンチシズムを追求しました。このような背景の中で作曲された本作は、「人間の孤独」に訴えかける優美なメロディーにより、瞬く間に世界的評価を獲得し、バーバーを代表する作品となりました。

またこの作品はジョン・F・ケネディ大統領の葬儀で演奏されたことから、追悼や慰霊の際の定番曲として定着しています。

作品の評価に不満だった?

大好評となった『弦楽のためのアダージョ』ですが、上記の通り、主に追悼や慰霊の定番曲として使われるようになったため、作者のバーバーは「葬式のために作った曲ではない!」と不満を漏らしていたそうです。

しかし本作は追悼の際以外にも、オリバー・ストーン監督の代表作『プラトーン』やフランス映画『アメリ』でも使用されるなど、この作品の人気ぶりがうかがえます。日本では、仙台フィルハーモニー管弦楽団による、東日本大震災後の復興コンサートで演奏され、記憶に新しい方もいらっしゃると思います。

聴きどころは?

消えるように現れる淡い光のような冒頭が印象的です。そして同様のモチーフを奏でながら、徐々に感情がピークに達します。感情がもっとも昂った後、その旋律は一度落ち着きを取り戻し、再びフィナーレへ向けて歩み始めます。非常に瞑想的でありながら、躍動感に溢れた作風が特徴です。

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『ピアノ協奏曲』について

バーバーが作曲した唯一の協奏曲であり、ヴァイオリン、チェロ、室内楽に続く最後の協奏曲でもあります。作曲の大半を歌曲に費やしたバーバーですが、この作品は楽譜出版社の創立100周年を記念するため、出版社の委嘱により作曲されました。全3楽章構成で、演奏時間はおよそ25分です。

作品は1960年に着手され、同年に2楽章まで作曲されましたが、第3楽章がなかなか完成せず、最終的に完成したのは、初演わずか15日前でした。バーバーが懇意にしていたアメリカの技巧派ピアニスト、ジョン・ブラウニングを想定して作曲されたため、演奏には超絶技巧が求められます。

初演15日前にようやく作品が完成したため、ブラウニングは十分な練習時間を確保できず、第3楽章のフィナーレを指定テンポで演奏できなかったそうです。

しかしそれでも初演は大成功を収め、バーバーはこの作品により1963年のピューリッツァー賞第2位、翌年1964年にはアメリカ音楽評論家サークル賞を受賞しています。

この作品がよほど気に入ったのか、バーバーはのちに2楽章だけを抜粋・改訂し、フルートとピアノのための『カンツォーネ』を出版し、さらにオーボエと弦楽用にも編曲しています。

ホロヴィッツでさえ難色を示した難曲

この作品は上述のピアニスト、ジョン・ブラウニングの演奏を想定して作曲されました。しかしその後、ウラジミール・ホロヴィッツもこの作品に取り組んだところ、ブラウニングと同様に第3楽章のフィナーレを指定テンポで演奏できず、それを知ったバーバーは考えを改めて、テンポの指示を変更したと言われています。

聴きどころは?

冒頭のピアノ独奏が作品全体の世界観を物語ります。不協和音が多く使われ、やがて弦楽がそれに呼応するように覆いかぶさり、ピアノと弦楽の激しい応答が繰り広げられます。
ロマン主義のバーバーとしては、実験的(前衛的)な作品であり、第3楽章の爆発的なフィナーレは、聴く人を興奮の渦に誘い込みます。

まとめ

今回は『弦楽のためのアダージョ』と『ピアノ協奏曲』という対照的な作品を紹介しました。一方は内省的、もう一方は激しく情熱的な作品であることがお分かり頂けたと思います。バーバーの作品の魅力はまさにこうした「感情の幅の広さ」であり、繊細さと大胆さが同居した精神性の調和にあると筆者は考えています。バーバーの作品は、聴けば聴くほどその魅力が深まりますので、今回の記事を機会に、ぜひ自分好みのバーバー作品を探してみてください。

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