アントン・ヴェーベルン『管弦楽のためのパッサカリア』『6つの小品』の解説・分析。楽曲編成や聴きどころは?

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シェーンベルクアルバン・ベルクらと共に新ウィーン楽派を牽引した作曲家アントン・ヴェーベルン。彼の徹底した12音技法は、同時代の作曲家に影響を与えたのはもちろんのこと、ジョン・ケージやブーレーズ、そして武満徹といった後世の音楽家たちにも多大な遺産を残しました。

前衛音楽の是非については賛否両論さまざまあるものの、彼の作品が20世紀という時代を象徴することは間違いないでしょう。そこで今回は、アントン・ヴェーベルンの生涯を振り返りつつ、2つの作品について解説します。

アントン・ヴェーベルンについて

新ウィーン楽派を代表する人物の1人、アントン・ヴェーベルンは1883年12月3日にオーストリアのウィーンに生まれました。裕福な家庭に育ち、ピアニストであった母からピアノの手ほどきを受けたヴェーベルンは、幼い頃からその楽才を発揮します。

ウィーン大学へ進学したヴェーベルンは、クイード・アドラーに音楽学を学び、1904年からシェーンベルクの許で作曲を学び始めます。1904年から1908年までシェーンベルクに師事したヴェーベルンは、その後、指揮者・作曲家・雑誌編集者として生計を立て、61年にわたる生涯で31曲の作品を残しました(作品番号付き)。

同じくシェーンベルクの門弟であったアルバン・ベルクとは生涯に渡り親交を深め、ベルクが亡くなった際にはヴェーベルン自らが『ヴァイオリン協奏曲』の指揮を務めています。

『管弦楽のためのパッサカリア』の解説

本作はシェーンベルクに師事したヴェーベルンが、その学習過程修了の証として作曲した作品です。初期の管弦楽作品であるため、ブラームスやマーラーといった後期ロマン派の影響が随所に見られるものの、ヴェーベルンの作品群の中ではもっとも演奏機会の多い作品として現在でも親しまれています。また本作は、ヴェーベルンにより「作品番号1」が付けられた作品です(これ以前の作品も残されています)。

1908年に作曲が開始され、同年11月にウィーンにて初演が行われました。演奏時間はおよそ11分程度です。本作は、ヴェーベルンが後期ロマン派的手法から無調音楽への転換を示す象徴的作品であり、この作品以降、彼は無調音楽の探求を開始します。

またタイトルの「パッサカリア」とは、スペインに起源を持つ17世紀から18世紀にかけて隆盛した音楽様式です。その語源はスペイン語で「歩く」を意味する「pasear」と、「通り」を意味する「calle」から来ています。

楽器編成について

演奏時間が11分程度と短い管弦楽曲ですが、ヴェーベルン作品としては最長の部類に属し、楽器編成も比較的大きな編成となっています。使用されている楽器は以下の通りです。

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・ピッコロ
・フルート(2)
・オーボエ(2)
・ホルン(4)
・イングリッシュホルン
・クラリネット(2)
・バスクラリネット
・トロンボーン(3)
・ファゴット(2)
・コントラファゴット
・トランペット(3)
・チューバ
・打楽器(ティンパニ、シンバル、大太鼓、トライアングル、タムタム)
・ハープ
・弦楽5部

『6つの小品』の楽曲構成

ヴェーベルンが1909年に作曲した4管編成による大管弦楽曲です。また本作はヴェーベルンの無調音楽への移行を示すという意味において、重要な位置を占めています。作曲から19年後の1928年にはオーケストラ版と2管編成版も制作され、現在もさまざまなバリエーションで演奏されています。

演奏時間はいずれも12分程度とされ、4管編成版は1913年にウィーンにて、2管編成版は1929年に初演を迎えました。作品は師シェーンベルクに献呈されています。極めて端的な作品で構成された本作は、もっとも長い第4曲でも41小節、最短の第3曲では11小節ほどしかありません。

隠れた標題がある?

本作には明確な標題は付けられていませんが、各6作品には「隠れた標題」が付けられています。というのも、本作にはヴェーベルンが23歳で経験した「母の死」が深く関わっており、それぞれの作品には母を亡くしたヴェーベルンの暗澹たる思いが込められているそうです。
抒情的でありながらも、どこか暗澹たる雰囲気が漂っているのはヴェーベルンの思いが込められているからかもしれません。

各曲が持つ隠れた表題は以下の通りです。これを読むと、当時のヴェーベルンの焦燥感や落胆の思いが伝わってきます。

第1曲・・・母親がまだ生きていてくれたら、という希望を持ちつつも、すでに痛ましい不幸と破局を予感している
第2曲・・・ケルンテンへ向かう列車の中で真実を悟る。予感が現実となる
第3曲・・・母親の棺に置いたエリカ(ツツジ科)の花の香り
第4曲・・・葬送行進曲。棺と共に墓地へ向かう
第5曲・・・葬式の日の夜の不思議な気持ち。追憶と諦観

まとめ

ヴェーベルンの『管弦楽のためのパッサカリア』と『6つの小品』について解説しました。
両曲ともヴェーベルン初期の作品であるため、現代音楽に馴染みの無い方でも比較的聴き易い作品だと思います。ヴェーベルンがその生涯で残した作品数はわずか31曲(作品番号付きの作品)と少ないものの、20世紀のクラシック音楽界に及ぼした影響という点においては、他のどの作曲家よりも大きいものであると言っても過言ではないかもしれません。今回の記事を参考に、ぜひ20世紀を象徴するヴェーベルンの世界に触れてみて下さい。

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