モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキー「展覧会の絵 」の解説・分析。 難易度や演奏の注意点は?

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モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキーは「ロシア5人組」の一人で、ロマン派の作曲家です。1881年、42歳という若さで亡くなるまで様々な作曲活動をしてきましたが、彼の存命中に楽曲が評価されることはごくわずかなものでした。本記事では、そのムソルグスキーの代表曲である「展覧会の絵」について解説していきます。

ムソルグスキーについて

まずは、「展覧会の絵」の作曲家であるムソルグスキーについて詳しくご紹介します。

ムソルグスキーの生涯

1839年にロシアで誕生しました。6歳の頃に母からピアノの手ほどきを受け、フランツ・リストの小品を弾くようにまでなったと言われています。
地主階級に生まれた彼は当時の慣習に従い、武官になるべく士官候補生としてエリート校に入学し勉学に励みます。しかし、音楽に対する情熱は失わず、最終的には武官の道を断ち音楽に専念する決断をします。

その後、農奴解放令のために地主だったムソルグスキー家は経済難に追い込まれます。それを契機に、文官との2足のわらじで作曲活動を続けました。一度エリートコースを外れたムソルグスキーの収入はあまり豊かではありませんでした。

母や親友の死を通して、次第に生活は破滅的なものになっていきます。友人の援助も受けながら作曲は続けるものの、楽曲は陽の目を見ないことが続きました。酒量も抑えられず、当時のムソルグスキーはアルコール依存症を患っていたと言われています。この飲酒癖によって、ついには文官としての職も無くなってしまいました。

1881年初頭、療養に専念していましたが、残念ながら42歳の若さでこの世を去りました。
かの有名な肖像画はちょうどこの入院中に描かれたものでした。

人物像とエピソード

 

ムソルグスキーの有名な肖像画は、目がうつろでワイルドな髭と髪形が非常に印象的ですが、若かりし頃の評判はまた少し違うものでした。
将来的に武官を目指していたムソルグスキーは10歳の頃、エリート教育を受けるために陸軍士官学校に進学します。学校では大変礼儀正しく、貴族らしくマナーや身のこなしもばっちり、当然学業成績もピアノの演奏も優秀で周囲からは大変人気を集めていました。なんと、飲酒の習慣はこの士官候補生の頃からあったそうです。

思い切って士官の道を断ち、音楽に専念してみたものの、専業音楽家になってすぐに実家の経済難のため生活は困窮を極めます。その中で芸術活動に携わるうちに「リアリズム」の影響を受けるようになり、農民などのいわゆる社会の低層の人々の厳しい現実に共感を抱くようになります。
リアリズムに立脚した楽曲を作成していったムソルグスキーですが、彼の作品は当時は突飛で異彩を放つものであり、他の音楽家や評論家からは批判の嵐でした。

厳しい生活や現実そのものに感心を寄せて芸術活動に昇華していたムソルグスキーですが、皮肉なことに自身の神経衰弱に拍車をかけることになり、実生活には良い影響を与えませんでした。母に次いで、親友である画家のヴィクトル・ハルトマンが亡くなると、次第に酒量が増加し生活に支障をきたすようになります。
奇しくもこのヴィクトル・ハルトマンが「展覧会の絵」のモチーフになった画家です。

肉親や親友の死を経験し、その他の友人たちもムソルグスキーから距離を置くようになります。飲酒癖の関係で職場からも追放され、孤独の中晩年を迎えることになりました。

心臓発作を起こし、アルコール依存症により療養生活を送るムソルグスキーでしたが、死因はなんと「ブランデーの大瓶」と言われています。入院中にも関わらず友人たちがブランデーの大瓶を差し入れ、この好意を見事に受け取った彼はブランデーを飲み干します。
ムソルグスキーが息絶えて倒れていた横には、しっかり空になった酒瓶が転がっていたのだそうです。

ムソルグスキーの葬儀は、晩年に肖像画を描いた画家のレーピンがその肖像画を売り払った代金で執り行われたと言われています。

代表曲

ムソルグスキーは音楽を学び始めた頃から晩年まで、生涯にわたって歌曲を書き続けました。そのため作品数として多いのは歌曲ですが、後世になり有名になったのはピアノ曲「展覧会の絵」や管弦楽曲の「禿山の聖ヨハネ祭りの夜」(=交響詩「禿山の一夜」)です。

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ムソルグスキーの作曲手法は大変独特であり、当時に評価されることはなく、公演されることもほとんどありませんでした。彼の死後、同じ「ロシア5人組」の一人であるリムスキー=コルサコフなどが編曲や補筆を行うことで世に広まることになります。
上述の「禿山の聖ヨハネ祭りの夜」(=交響詩「禿山の一夜」)や、本記事で取り上げている「展覧会の絵」も同様です。

その他に、ムソルグスキーが唯一生前に完成させたオペラである、歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」や歌曲「死の歌と踊り」も代表される楽曲です。

ムソルグスキーは未完作品も大変多くあります。もし未完作品がしっかり完成されて披露されていれば、もっと有名な楽曲が増えていたかもしれませんね。

組曲「展覧会の絵」について

ピアノ版

1874年に完成された楽曲です。ムソルグスキーはピアノ曲として作曲しましたが、今日多く聞かれているバージョンはムソルグスキーの死後、フランスの作曲家ラヴェルにより管弦楽曲へと編曲されたものです。

それでは、次に「展覧会の絵」の背景や楽曲の解説を紹介していきます。

楽曲の背景

「死んだガルトマン(ハルトマン)の創造精神が私の頭蓋骨に訴えている。やがて頭蓋骨は静かに輝きはじめる。」

これは、ムソルグスキーが展覧会の絵の自筆の楽譜に書き残した一文です。

1873年、友人のヴィクトル・ハルトマン(建築家・画家)が39歳の若さで亡くなります。ムソルグスキーにとって友人の死は非常にショックな出来事でした。

ハルトマンの死後、遺作展がサンクトペテルブルクの美術学校で開かれます。ムソルグスキーはこの展覧会に足を伸ばし、心に残った10枚の絵から着想を得て本楽曲を作曲しました。

この遺作展はムソルグスキーの音楽熱を強烈に揺り動かしたのか、作曲が遅いムソルグスキーにとっては異例の3週間という速さで完成させたと言われています。

特徴

「展覧会の絵」は短い前奏曲のプロムナードの他、10曲から構成されています。

<第1プロムナード>

1.小人

<第2プロムナード>

2.古城

<第3プロムナード>

3.テュイルリー(遊んだ後の子供のけんか)
4.ブイドロ(牛車)

<第4プロムナード>

5.卵の殻をつけたひなどりのバレエ
6.ザムエル・ゴルデンベルクとシュムイル

<第5プロムナード>

7.リモージュの市場
8.カタコンベ-ローマ時代の墓
9.鶏の足の上に建っている小屋
10.キエフの大きな門

通しで演奏すると、プロでもおよそ30分ほど要する壮大な大曲です。

曲間に挟まれているプロムナードは、ムソルグスキーが展覧会を歩いて回る姿、とりわけ次の絵へと移動している様子が表現されたものです。
この中で有名なのは「プロムナード」と「キエフの大きな門」です。バラエティ番組にも使われているため、耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。

それぞれに題材となった絵画があるため、曲ごとにかなり印象が異なります。演奏の際にはぜひモチーフになったハルトマンの絵をイメージしてみると良いでしょう。

難易度

全音楽譜出版社の難易度は「第6過程・上級」に設定されており、難曲であるといえます。

同レベルに設定している他の曲は、

・ツェルニー 60番練習曲
・バッハ 平均律クラヴィーア曲集1.2
・リスト ハンガリー狂詩曲1.2
・ショパン ポロネーズ集
・ドビュッシー 喜びの島

など、同じく難曲ばかりです。

とはいえ、これは個性豊かな全10曲を総合的に評価したものです。
意見は様々ですが一般的な傾向として、有名な「プロムナード」だけであれば技術的には中級程度のレベルで弾けるでしょう。しかしプロムナードは高低幅広く音を使っているため、手が小さい人には弾くのが難しいといわれています。

「1.小人」「9.鶏の足の上に建っている小屋」は中でも非常に難曲です。しっかり譜読みをして臨みましょう。

演奏のポイント

「プロムナード」の特徴はなんといっても変拍子。5拍子から始まり、次に6拍子、そしてまた5拍子……と、非常に目まぐるしく変わっていきます。
表情豊かな和声とダイナミックなメロディが特徴的ですが、うまく拍子を感じながら躍動感をつけていきたいですね。

「キエフの大きな門」はアレグロ・アッラ・ブレーヴェ・マエストーソ・コン・グランデッツァの指示があり、組曲中最も荘厳さを演出したい楽曲です。見どころはなんといっても雄大な一大コラール。ミスタッチ無く豊かに和声を響かせましょう。

また、実在の絵画を題材にしているだけあって、それぞれの曲が実に表情豊かです。当時、既存の作曲手法や形式にとらわれず、目の前にあるものから受けたインスピレーションを尊重して制作していたムソルグスキー。「展覧会の絵」の最大の演奏ポイントはその特徴的な色彩表現と言えるでしょう。

原典版はピアノ曲として作られましたが、ラヴェルのオーケストレーション編を聴く機会のほうが多いかもしれません。
「展覧会の絵」はピアノ曲にしては和音を多用しており、管弦楽曲を作るための習作のような作りであったそうです。そのため、多彩な表現のヒントとして管弦楽編を一度聴いてみるのも良いでしょう。

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>>モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキーってどんな人?その生涯や性格は?

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