オリヴィエ・メシアン「トゥランガリラ交響曲」「世の終わりのための四重奏曲」の解説・分析。楽曲編成や聴きどころは?

出典:[amazon]Olivier Messiaen Complete Edition

20世紀のフランスの音楽界において、最高の作曲家として名高いオリヴィエ・メシアン。なかでも今回紹介する「トゥランガリラ交響曲」は、メシアン作品の中でもっとも演奏機会の多い作品として、人々に親しまれています。初めて聴く人にとっては不思議な印象を受けるかもしれませんが、その分、新しい音楽体験ができること間違いなしです。今回は「トゥランガリラ交響曲」と、壮大な室内楽曲として知られる「世の終わりのための四重奏曲」について解説します。

トゥランガリラ交響曲について

トゥランガリラ交響曲は、ボストン交響楽団の音楽監督セルゲイ・クーセヴィツキーが設立したクーセヴィツキー財団の委嘱により、1946年から1948年にかけて作曲されました。メシアンが作曲した管弦楽作品の中でも最大規模の作品であり、また現代音楽を代表する傑作の一つとして演奏機会の多い1曲です。作曲当初は4楽章構成として書かれましたが、最終的に10楽章構成という壮大な作品となりました。

本作は、中世の伝説『トリスタンとイゾルデ』からインスピレーションを受けて作曲され、
「ハラウィ・愛と死の歌」「5つのルシャン」と並び「トリスタン三部作」の1つに数えられています。1949年、アメリカ・ボストンにて、レナード・バーンスタインの指揮で初演され、その翌年の1950年にフランス本国でも初演されました。オンド・マルトノと呼ばれる電子楽器を用いた本作は、現代クラシック音楽に新たな地平を切り開くきっかけとなっています。

トゥランガリラの意味とは?

曲名の「トゥランガリラ」とは、サンスクリット語で「時」「天候」「楽章」「リズム」などを意味するTurangaと、「遊戯」「競技」「愛」を意味するLilaの複合語です。このことからトゥランガリラとは「愛の歌」や「喜びの聖歌」などを意味すると考えられています。あるいは、インド音楽に存在する120のリズムのうちの33番目のリズム名から取られたとする説や、インドの女性の名前に由来するとする説など、さまざまな説があります。

壮大な楽曲編成

トゥランガリラ交響曲は、交響曲としても壮大な全10楽章で構成されています。そのうち、1・5・6・10楽章は作品全体を支える枠組的楽章であり、2・4・8楽章は「愛の歌」、3・7・9楽章に「トゥランガリラ」が組み込まれています。作品全体としては、現代音楽らしい無調音楽ですが、5・6・10楽章では調性が明確となっています。筆者個人としては、第5楽章の大胆な構成がお気に入りです。

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世の終わりのための四重奏曲について

フランス軍の兵士として第2次世界大戦に従軍したメシアンは、ドイツ軍の侵攻により捕虜となります。そしてゲルリッツの捕虜収容所内で作曲されたのが、本作「世の終わりのための四重奏曲」です。1940年に作曲され、同じく捕虜として捕まっていたチェリストのエディエンヌ・パスキエ、クラリネット奏者のアンリ・アコカ、のちに加わったヴァイオリニスト、ジャン・ル・ブーレールによって初演されました。作品は新約聖書「ヨハネの黙示録10章」がベースとなっています。

収容所というと過酷な生活を想像しますが、ゲルリッツ収容所には図書館やオーケストラ、400人ほど入る劇場などもあったそうで、比較的自由な生活が許されていたそうです。加えて作曲家として名声を得ていたメシアンは優遇されたこともあり、早くから解放され、別棟にてこの作品を書き上げたと言われています。

メシアンの勘違い?それともわざと?

のちにメシアンは収容所での初演について、「5000人の前で演奏された」あるいは「極寒の収容所内でチェロの弦は3本しかなかった」と語っていますが、実際には劇場の収容人数は400名が限度であり、チェロの弦も4本あったそうです。もしかしたら、メシアンの記憶の中ではそれぐらいの規模に見えたのかもしれませんが、真相は定かではありません。

また、初演に携わった4名は終戦以降それぞれの道を歩み、メンバーが再び集合することはなかったそうです。現在、収容所跡地には記念碑が建てられ、メシアン生誕100周年にあたる2008年には、跡地にて本作が演奏されました。

標題付きの楽曲構成

本作はヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノの楽器編成となっています。全8楽章という長大な室内楽であり、それぞれに標題が付けられています。なお、本作が「8楽章」とされているのは、神による天地創造の7日目以降に訪れる、「平穏な8日目」に由来するそうです。各楽章には以下のような表題が付けられています。

1、水晶の典礼
2、世の終わりを告げる天使のヴォカリーズ
3、鳥たちの深淵
4、間奏曲
5、イエスの永遠性への賛歌
6、7つのトランペットのための狂乱の踊り
7、世の終わりを告げる天使のための虹の混乱
8、イエスの不滅性への賛歌

まとめ

いかがでしたか?今回は「トゥランガリラ交響曲」と「世の終わりのための四重奏曲」について解説しました。どちらも長い作品ですので、少しずつ聴いてみたり、気分によって聴く楽章を変えてみるのも面白い聴き方だと思います。メシアンの作品は実験的で難解なため敬遠してしまいがちですが、どの作品もメシアンの高い精神性に溢れています。この記事を機会に、ぜひ他のメシアン作品を聴いてみてください。

>>オリヴィエ・メシアンってどんな人?その生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?

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