心の琴線に触れる美しいメロディー「カノン」。作曲者パッヘルベルの名前は知らなくても、一度は作品を聴いたことがある人も多いと思います。あまりに有名な作品ではありますが、その成り立ちや「カノンの意味」などを知る人は、意外に少ないのではないでしょうか。
また、この作品が広く一般に知られるようになったのは、20世紀後半に入ってからだというのも興味深い事実です。そこで今回は、世界でもっとも知られる名曲の一つ「カノン」について分かりやすく解説します。
『3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ』とは?
教会オルガニスト、作曲家として活躍したパッヘルベルを代表する作品の一つです。詳しい作曲年代は不明ですが、パッヘルベルが家庭教師を務めていた、大バッハの兄クリストフ・バッハの結婚祝いに贈った作品と伝えられています。ニ長調、4分の4拍子で構成され、一般的なカノンとは異なり、チェンバロによる通奏低音が伴うのが特徴です。
パッヘルベルによる自筆の譜面は残されておらず、残された最古の写譜は、19世紀に写されたものと言われています。また作曲された当時は「カノンとジーグ」のワンセットとして演奏されていました。
「カノン」ってどういう意味?
「カノン」といえば「パッヘルベルのカノン」を思い出す方が多いと思います。しかしそもそも「カノン」とはどのような意味なのでしょうか。調べてみたところ、その語源はギリシャ語まで遡ります。ギリシャ語で「カノン」とは「杖」や「物差し」を意味するとのこと。さらにその元をたどると、植物の「葦(アシ)」を意味することが分かりました。「葦」は真っ直ぐに育つことから、「杖」や「物差し」といった意味へと派生していったそうです。
キリスト教における「カノン」とは「神への真っ直ぐな光」を表すことからも、その語源に納得がいきますね。
「カノン」の特徴について
カノンの語源について解説したところで、次に「カノン」の形式について解説します。カノン形式は、古くは中世ルネサンス時代(14世紀頃)に登場しており、<複数の声部が同じ旋律を異なる時点から開始する演奏様式>が特徴です。
日本では「かえるの歌」などの輪唱がカノンの一例として挙げられますが、本来の「カノン」はメロディーやリズムが変わる場合があるため、厳密には同一とはいえません。また「カノン」にはさまざまな種類があり、代表的なものとしては以下のものがあります。
・反行カノン
・拡大カノン
・多重カノン
・謎カノン
各カノンについての説明はいずれの機会にお話するとして、カノン形式が実は奥深いことが分かります。
通奏低音とは
「通奏低音」という言葉は、なかなか聞き慣れない言葉だと思います。しかしこの「通奏低音」こそ、バロック音楽をバロック音楽たらしめる最大の特徴といっても過言ではないでしょう。
「通奏低音」とは、まさに読んで字の如く、作品の「最初から最後まで通して演奏されるバス・パート」のことを指します。ロマン派の代表的作曲家、リヒャルト・ワーグナーも自身の作品において、しばしば通奏低音を用いました。
パッヘルベルが生きた時代の通奏低音には、主にチェンバロやオルガン、リュートといった楽器が用いられ、2人〜3人で演奏されるのが一般的でした。「パッヘルベルのカノン」の伴奏をじっくり聴いてみてください。最初から最後まで、同じ伴奏が流れているのに気がつくと思います。それが「通奏低音」です。
また、通奏低音を示す音符には数字が示されており、それをみながら和音を演奏するのも特徴の一つです。
「カノンとジーグ」でワンセット
実は「パッヘルベルのカノン」は本記事のタイトル通り、「カノンとジーグ」のセットとして発表されました。つまりカノンの演奏後にジーグが続くというスタイルです。
では「ジーグ」とは何なのでしょうか?。簡単に説明すると、ジーグとはイギリスやアイルランドで流行した8分の6拍子、8分の9拍子、8分の12拍子を用いた舞曲を指します。
6分25秒から曲調が変わり、そこから「ジーグ」となります。
有名になったのは20世紀に入ってから
癒しのメロディーとして世界中で愛されている「パッヘルベルのカノン」。しかし、意外にもその認知が広まったのは20世紀後半からでした。つまり発表からおよそ280年の間、「パッヘルベルのカノン」は埋もれた作品だったのです。
そんな「パッヘルベルのカノン」が脚光を浴びたきっかけは、フランス・バイヤール管弦楽団が録音したLP(レコード)がアメリカ・サンフランシスコのラジオで流れたことに始まります。このラジオを聴いたリスナーから作品の問い合わせが殺到したことで、瞬く間に人気となり世界中に広がっていったのです。
「パッヘルベルのカノン」以外のカノン
カノンはあくまでも音楽形式の一つであることをお伝えしました。したがって、「パッヘルベルのカノン」以外にも数多くのカノンが作曲されています。
代表例として、バッハの『音楽の捧げ物』や『ゴールドベルク変奏曲』などがあり、その他、ベートーヴェンやシューベルト、メンデルスゾーンなどもカノン作品を残しています。
なかでも、グスタフ・マーラー作曲『交響曲第1番「巨人」第3楽章』冒頭のカノンは白眉ですので、ぜひそちらも参考になさってください。
楽器を変えつつ、同じメロディーが次々と繰り返されていることがわかると思います。
まとめ
今回は、いわゆる「パッヘルベルのカノン」について解説しました。私たちが気付かないだけで、現代でも多くの作曲家によってカノン進行が使われているのは、とても興味深い点だと思います。今回紹介した作品以外にも、カノン進行を用いた名曲は数多くありますので、「これもカノン進行かな?」と探してみるのも面白いかもしれません。
>>ヨハン・パッヘルベルってどんな人?出身やその生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?
コメントを残す