出典:[amazon]エリック・サティ生誕150周年企画 サティ ピアノ作品集
19世紀後半から20世紀にかけて、その独特な世界観で音楽界を駆け抜けたエリック・サティ。サティの音楽や作曲方法は、伝統を超えて新しい時代への扉を開いたものでした。サティはラヴェルやストラヴィンスキー、そしてシェーンベルクやメシアンなどの後世の作曲家に大きな影響を与え、音楽界の発展に寄与しました。そこで今回は、サティの作品の特徴とおすすめ代表作をご紹介します。
サティの作品の特徴と評価
サティの作品の特徴は、なんといっても既存の常識(調性)を破壊した作曲方法にあります。通常は「ドレミファソラシド」の音階や和音の美しさ、転調により音楽を構成しますが、サティはその伝統を覆し「無調」の試みを行った点が大きな特徴です。
楽譜の記譜方法も独特です。サティ以前の音楽には当たり前に記されていたもの、例えば、拍子、小節線、縦線や終止線が省かれ、その代わりに演奏方法を指示する散文的な言葉を添えるなど、記譜にも大きな変化をもたらしました。この手法は後の音楽家にも引き継がれ、現代音楽でも用いられているようになりました。
また、音楽そのものに対する捉え方にも大きな変化をもたらしました。サティ以前の音楽は、作品を聞く聴衆は「静かに黙って鑑賞する」のが通常でした。しかしサティの提唱した「家具の音楽」は、音楽が誰にも意識されずに「ただ流れている」という新しいスタイルのものでした。そしてこのスタイルは、ジョン・ケージなどの現代作曲家にまで影響を及ぼすこととなりました。
パリ音楽院を「退屈だ」という理由で去ったサティですが、だからこそ既存の常識に縛られずに新しい手法を生み出せたのかもしれません。シャンソンの伴奏や作曲などで次第に評価されるようになったサティは、ジャン・コクトーやピカソなど、時代を代表するアーティストと作品を共作するなど、年齢を重ねるにつれて、その作風が評価されるようになりました。
おすすめ代表作6選
エリック・サティのおすすめ代表作をご紹介します。なかには常識を逸脱した作品も含まれていますが、サティの作品を紹介するにあたって非常に興味深い作品ですので、ぜひこれを機会に聞いてみてください。
家具の音楽
「家具の音楽」は1920年、パリで初演されました。この曲を披露したときにサティは聴衆に対して「この曲は聞き入らずに、おしゃべりを続けてください」という注文をつけたそうです。ところが、そのような習慣のなかった聴衆は、いつも通り静かに聞き入りました。これに怒ったサティは、「おしゃべりを続けるように言っただろ」と怒りだし会場をまわったそうです。
サティはこの作品の中で「意識されることのない音楽」あるいは「日常に溶け込んでいる音楽」を表現しました。現在では当たり前になっている、BGMの先駆けと言われる作品です。
星たちの息子
「星たちの息子」は、神秘思想家で作家でもあった、ジョゼファン・ペラダンの同タイトルの演劇のために作曲されました。サティは一時期、ペラダンが主催する団体に所属し、公認の作曲家として作曲活動をしていました。そのときに作曲されたのが「星たちの息子」です。元々はフルートとハープのために作曲されましたが、ピアノ曲へと編曲され現在では後者が演奏されています。曲調は非常に瞑想的で、それぞれ神秘主義的なタイトルがつけられています。訳によって多少異なりますが、それぞれは以下のようなタイトルです。
1、第一幕への前奏曲=使命
2、第二幕への前奏曲=秘法伝授(入団式と訳される場合も)
3、第3幕への前奏曲=呪文
ジュ・トゥ・ヴ(おまえが欲しい)
1900年に作曲されたシャンソンです。サティは、多くのシャンソンも作曲しています。その中でも「ジュ・トゥ・ヴ」は特に有名で、誰しも一度は聞いたことがあると思います。この曲は、当時の人気シャンソン歌手ポーレット・ダルティのために作曲されました。とても緩やかで、優雅なワルツ形式です。
梨の形をした3つの小品
1903年に作曲された、4手連弾のためのピアノ曲です。この作品にはこんなエピソードがあります。ある日、友人であったドビュッシーから「形式的な作品を作ってみては?」という指摘がありました。これは、あまりに形式を無視した作品を作るサティへの注意だったのかもしれません。そこでサティは形式に則ってこの曲を作曲しましたが、タイトルにサティらしい皮肉を込めました。フランス語で「梨」は「まぬけ」や「うすのろ」などの意味があり、形式に対する批判が含まれた作品です。
ひからびた胎児
1913年に作曲された3曲構成の作品で、それぞれのタイトルが特徴的です。
1、ナマコの胎児
2、甲殻類の胎児
3、柄眼類の胎児
と命名されています。
各曲に冒頭文が添えられていて、とくに「ナマコの胎児」の冒頭文「私はサン・マロ湾で一匹のナマコを観察した」とう文章が有名です。またこの曲はショパンの葬送行進曲のパロディとも言われています。
曲中には短い指示が添えられ、とても絵画的な作品といえるでしょう。
ヴェクサシオン
実はこの作品も、サティを代表する曲と言えます。52拍の1分程度の短い曲ですが、なんとこれを840回連続で演奏するという作品です。演奏時間はおよそ18時間で、10人以上が交代で演奏されたこともあるそうです。奇想天外な曲ですが、短いフレーズを繰り返すミニマル・ミュージックの元祖とも言われ、サティが提唱した「家具の音楽」を代表する作品です。なお、タイトルのヴェクサシオンはフランス語で「嫌がらせ」という意味で、ここにもサティのユーモアがみて取れます。
まとめ
いかがでしたか?今回は、サティの作品の特徴と、おすすめ代表作6選をご紹介しました。サティは伝統的形式や音楽的手法にとらわれずに、自由に作曲活動を行った人物です。また、その自由奔放さはサティ自身の人生にも表れていました。今回ご紹介した作品は、サティの作品の一部ですので、ぜひご自身でサティの魅力を発見してみてください。聞けば聞くほど、サティの魅力に魅かれていくと思いますよ。
>>エリック・サティってどんな人?その生涯や性格は?死因は?
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