出典:[amazon]ディーリアス・ボックス(生誕150年記念)
前回の記事では、ディーリアスのおすすめ代表曲を紹介しました。どの曲も透明感があると同時に、ディーリアスの卓越した管弦楽法を楽しめたのではないかと思います。今回はそんなディーリアスの作品の中から、彼を象徴する管弦楽曲『フロリダ』と、第一次世界大戦中が勃発し、混沌とした世界の中で作曲された『レクイエム』を解説します。どちらもディーリアスを知る上で欠かすことのできない作品ですので、ぜひ参考にしてみてください。
管弦楽組曲『フロリダ』について
管弦楽組曲『フロリダ』は、1887年に作曲されたディーリアス初期を代表する作品であるとともに、ディーリアスが初めて作曲した管弦楽作品でもあります。本作『フロリダ』は、ディーリアスが若い頃に過ごしたフロリダでの生活にインスピレーションを受け、ライプツィヒにて作曲されました。
羊毛業を営む父の意向により、ドイツ、スウェーデン、パリに渡ったディーリアス。しかし、いずれの地でも本業より音楽に熱中したディーリアスは、ついにオレンジのプランテーション農場を学ぶ名目で、アメリカのフロリダ州で生活することになります。
この地で真面目に働くかと思いきや、ディーリアスはジャクソンビルで出会ったオルガニストに作曲を学ぶなど、またもや音楽に心を奪われます。やがて息子の音楽に対する情熱に観念した父は、ようやく音楽の道を志すことを許し、ディーリアスのライプツィヒ音楽院入学を許可します。
その後本作は1888年にライプツィヒにて初演され、会場にはディーリアスを含む三人が聴衆として訪れました。その中の一人にエドヴァルド・グリーグがおり、本作を絶賛したグリーグは、これ以降ディーリアスの支援者として親交を深めることになります。
余談ですが、初演を演奏した楽団員には謝礼として、演奏代の代わりとしてビールが振舞われたそうです。
ディーリアスはその後数回にわたり本作を改訂しましたが、完成された作品を聴くことなく1934年にこの世を去っています。ディーリアスの死後、友人で指揮者のトーマス・ビーチャムが本作を再演したことで注目を集め、以降ディーリアスの代表作として人々に知られることとなりました。
楽曲編成や楽器編成は?
6つの部分から構成されていますが、大きく分けて4楽章構成となっています。本作はそれぞれの楽章に標題が付けられた標題作品です。
第1楽章・・・夜明けー踊り
第2楽章・・・河畔(かはん)にて
第3楽章・・・夕暮れー農場のそばで
第4楽章・・・夜に
このように、本作にはディーリアスがフロリダで体験した「フロリダでの1日」が色彩豊かに表現されており、現地で聴いたアフリカ系アメリカ人の黒人霊歌の要素が取り入れられています。また、第1楽章「夜明けー踊り」の一部は、ディーリアスのオペラ『魔法の泉』や『コアンガ』といった作品に転用されているのも注目すべきところです。
ディーリアスの『レクイエム』について
本作は1913年から1916年にかけて作曲された作品です。ソプラノ、バリトン、合唱と管弦楽で構成され、演奏時間はおよそ30分です。第1次世界大戦中に作曲された影響もあり、本作は「大戦に倒れた全ての若き芸術家の記憶に」捧げられています。
無神論者を自称していたディーリアスがなぜレクイエムを作曲したのかは、現在も不明のままであり、発表当時は「反キリスト教的である」という批判が巻き起こりました。
しかし、ディーリアス本人は本作について「私はかつてこれほどうまく書けたことはない」と語っています。実際に作品を聴くと、宗教的であるというよりはむしろ、「人間精神の崇高さ」を感じられるのではないでしょうか。
本作は1922年に初演されたものの、1968年に初めて録音されて以降、20世紀中にわずか7回しか上演されなかったディーリアス幻の作品としても知られています。
そもそも「レクイエム」とは?
そもそも「レクイエム」とはどのような作品なのでしょうか。クラシック音楽ではモーツァルトやヴェルディ、フォーレ、ブラームスによるレクイエムが有名ですが、レクイエムとはもともと「安息を」という意味のラテン語です。
そこから派生して、死者の安らぎを神に祈るカトリック教会のミサとして発展しました。
一般に、入祭文、昇階唱、続誦(ぞくしょう)、怒りの日、奉献文、聖体拝領の順で進みますが、その形態は作曲者によりさまざまです。
楽曲編成について
比較的大規模な管弦楽編成となっています。使用される楽器は次の通りです。()は人数。
・フルート(3)
・ファゴット(3)
・オーボエ(2)
・バス・オーボエ(1)
・クラリネット(3)
・バス・クラリネット(1)
・サリュソフォン(1)
・ホルン(6)
・トランペット(3)
・トロンボーン(3)
・テューバ(1)
・ティンパニ
・チェレスタ
・ハープ
・弦楽5部
まとめ
管弦楽組曲『フロリダ』と『レクイエム』について解説しました。作風が全く異なることなるのもさることながら、それぞれの作品が持つ歴史背景もとても興味深いものがあります。
特に『レクイエム』は演奏機会がほとんどない作品として知られていますが、ディーリアスの思想が色濃く表現された作品であると筆者は感じています。近年注目を集めているディーリアス。この記事を機会にディーリアスの世界観に触れてみてはいかがでしょうか。
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