ミハイル・グリンカ 「皇帝に捧げた命」「ルスランとリュドミラ」の解説・分析。あらすじや聴きどころは?

出典:[amazon]Mikhail Glinka: Songs and Romances

ロシアクラシック音楽の基礎を築いたミハイル・グリンカ(1804-1857)。特にオペラ分野での功績が大きく、後の作曲家にも大きな影響を与えたことで知られています。
今回は、特に有名な「皇帝に捧げた命」と「ルスランとリュドミラ」の二つのオペラについて解説していきます。

オペラ「皇帝に捧げた命」(1834-1836)

グリンカの最初のオペラが「皇帝に捧げた命」です。ロシアのメロディ、民俗音楽を取り入れた新しいクラシック音楽を模索していた時期に書かれたもので、ロシアの国民オペラともいわれる傑作作品です。

「皇帝に捧げた命」という題名はニコライ1世によるもの

「皇帝に捧げた命」は元々「イヴァン・スサニン」という名のオペラでした。
ロシアオペラを作ろうと題材探しをしていたところ、ジューコフスキーにローゼン男爵の「イヴァン・スサニン」を勧められ、これをオペラ化しました。
オペラは全5幕、もしくは全4幕とエピローグで構成され、イヴァン・スサニンの武勇伝が余すところなく語られます。

イヴァン・スサニンは実際にいた人物で、ミハイル・ロマノフ皇帝をポーランド軍から守った農夫として知られています。
自分の命を犠牲にしてまで皇帝を守り切ったことから、英雄視されることが多く、このオペラの中でも英雄として描かれています。

ニコライ1世はグリンカによって献呈された「イヴァン・スサニン」を非常に気に入ったため、これを「皇帝に捧げた命」と改題し、返礼としました。さらに、オペラの成功報酬として、当時の値段で4000ルーブルは下らない高価な指輪をグリンカに授けています。

オペラはニコライ1世のみならず、大衆にも大変受け、「国民オペラ」として爆発的な人気を博しました。
この結果、グリンカは宮廷礼拝堂合唱長に任命され、ロシア音楽界で確かな地位を手にすることになります。

「皇帝に捧げた命」の功績

「皇帝に捧げた命」の音楽は、ロシアとポーランドの攻防を表すべく、ポーランドとロシアの二つの民族の音楽要素が巧みに取り入れられています。
その二つは交わることなく、対照的に取り入れられ、見事な音楽的対立を描き切っています。がしゃがしゃとうるさいわけではなく、あくまでも芸術的に仕上げているところに大変高い評価が付けられています。

また、このオペラはロシアオペラの一つの転換を迎える重要な作品にもなりました。
それまで、ロシアのオペラというのはセリフの付いた歌芝居でしかありませんでした。
それが、モーツァルトのオペラのように、レチタティーヴォ、重唱、独唱(アリア)、合唱などを組み合わせて、より音楽的な劇に仕上げたのは「皇帝に捧げた命」が初めてだったのです。つまり、ロシアオペラの確立を促した作品ともいえるのです。

オペラ「ルスランとリュドミラ」(1837-1842)

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オペラ「ルスランとリュドミラ」はグリンカの第二番目のオペラになります。友人のプーシキンの詩をベースにオペラ化したものですが、当時のロシアではあまり受け入れられませんでした。しかし、西ヨーロッパでは大変に人気が出て、ピアノ曲にアレンジして演奏曲に加えるものも出てきました。

ロシアのメルヘンオペラ

「ルスランとリュドミラ」はプーシキンの詩を元に、グリンカ含む5人の人物によって台本が書かれ、オペラ化されました。元々プーシキンが台本を担当する役割を担っていたのですが、美人妻を巡る決闘に巻き込まれ重傷を負い、台本執筆が叶わなくなってしまったのです。劇は全5幕(8場)から成り、演奏時間は全部で3時間強という大作です。

内容は、騎士ルスランがキエフ大公の娘リュドミラを黒魔術師チェルノモールから奪還するというもので、どこか「白鳥の湖」を髣髴とさせる内容になっています。
悪魔の城、黒魔術、白魔術、幻影などが描かれている他、バレエがところどころに組み込まれていることから、メルヘンオペラの一つに数えられることもあります。

序曲が大変有名なオペラ

「ルスランとリュドミラ」は特に序曲が有名なオペラとしても知られています。躍動感あふれる活気づいた音楽は、これから何が始まるのだろうかと聴衆をワクワクさせます。最初のシーンがルスランとリュドミラの婚約の宴のシーンであることも、序曲の音楽をお祝いムードに仕立てているゆえんかもしれません。
いずれにしても序曲は、それ単品で十分に楽しめる曲であるため、演奏会などで抜粋して演奏されることも多いです。

また、第4幕で演奏される黒魔術師「チェルノモールの行進」も有名です。この旋律はリストがいたく気に入り、ピアノバージョンに編曲して自ら演奏会でよく演奏して披露していたことも「チェルノモールの行進」を有名にさせた一因だと考えられています。

もともとオペラ曲の一つだったとは知らなかったという方、ぜひ一度オペラ「ルスランとリュドミラ」を見てみて下さい。ピアノ曲とは違う重厚感を味わうことができます。

まとめ

グリンカの二大オペラ「皇帝に捧げた命」と「ルスランとリュドミラ」について解説してきました。

ロシアオペラは全編ロシア語で上演されることがほとんどで、なかなか上演されることが少ないです。そのため、あまりよくは知らないという方が多いのも事実です。

グリンカの音楽は、西欧のメロディも多く取り入れられているので、ロシア的でありながらどこか聞き覚えのある旋律が耳心地良く、非常に聴きやすいものが多いです。

ロシア物はちょっとという方もぜひグリンカのオペラをYouTubeなどで聴いてみてください。良い意味で、ロシアオペラのイメージが変わることでしょう。

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