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スペイン民族主義音楽の代表者とされるマヌエル・デ・ファリャ。同時代に生きたドビュッシーやラヴェル、ストラヴィンスキーなどと比べて作品数は少ないものの、スペイン民族主義と印象主義、そして新古典主義を融合させた彼の音楽は、クラシック音楽界に新たなムーブメントを生み出し、現在も多くの人々に愛されています。なかでもバレエ音楽『三角帽子』はファリャをもっとも代表する作品であり、バレエ及び組曲として演奏機会の多い作品です。
そこで今回はファリャの代表作『三角帽子』と、晩年の傑作『アトランティーダ』について解説します。
三角帽子について
『恋は魔術師』と並びファリャ作品をもっとも代表する『三角帽子』。本作はスペインの作家アラルコンの同名作品をバレエ音楽化した作品です。1916年に作曲が開始され、同年8月に第1部が、12月に第2部が完成しました。
1917年の発表当時は、小編成オーケストラによるパントマイム『代官と粉屋の女房』として発表され、マドリードのエスラバ劇場にて初演が行われました。
その後、バレエ・リュス(ロシアバレエ団)を率いるセルゲイ・ディアギレフの示唆により、ファルーカ、ホタ、ファンタンゴなどのスペイン民族舞曲が追加され、大幅な改訂ののちバレエ『三角帽子』が誕生します。1919年にロンドンで行われた初演は大きな成功を収め、以降ファリャを代表する作品として今日も親しまれています。
初演の際には、バレエ・リュスによるバレエ、アンセルメによる指揮、舞台美術・衣装をパブロ・ピカソが担当するという豪華な顔ぶれでした。本作は序奏と2幕で構成され、作品で用いられる13曲をファリャが担当しています。
なお、タイトルの『三角帽子』とは権威の現れとして代官が被っている「3つの角」がある帽子のことです(形が三角形というわけではありません)。日本でも1979年に初演されています。演奏時間はおよそ40分です。
また、アメリカでの初演時に舞台美術・衣装を担当したのは、シュールレアリスムの代表者の1人サルバトール・ダリでした。
楽器・楽曲編成は?
主な登場人物は、代官、ルーカス(粉挽屋)、フラスキータ(粉挽屋の妻)の3名。代官が粉挽屋の妻フラスキータに恋心を抱くものの、ルーカスとフラスキータの協力により巧みに交わされ、最後には代官が大恥をかくという、反権力を象徴した痛快なあらすじです。
組曲もある
バレエ本編から主要部分のいくつかが抜粋され、2つの組曲が編成されています。本作は組曲として演奏される機会も多いため、この記事を機会にぜひ参考にしてみてください。2つの組曲に本作の聴きどころが集約されています。
第一組曲
1、序奏部
2、粉屋の女房の踊り
3、代官の踊り
4、粉屋の女房
5、ぶどう
第二組曲
1、近所の人たちの踊り
2、粉屋の踊り
3、終幕の踊り
アトランティーダとは?
1927年に作曲が着手され、ファリャの死後、弟子エルネスト・アルフテルによって完成されたカタルーニャ語を用いたカンタータです。アンダルシアやムルシア、カスティーリャといったスペイン各地を題材とした作品を残したファリャが、カタルーニャを題材とした作品を作りたいと願い、本作が生み出されました。テクストにはカタルーニャ語文学最高の詩人と評されるジャシン・バルダゲーの叙事詩が採用されています。
この作品を作曲するにあたり、ファリャはカタルーニャ語の辞書や文法書を片手に作曲に取り組んだそうです。1929年には台本が完成しており、スペイン内戦の影響でアルゼンチンへ亡命した後も制作が続けられましたが、残念ながら完成を待たずにファリャはこの世を去ります。
ファリャの死後、本作の完成を望む周囲の声に応える形でアルフテルが補筆し、ファリャの死から14年後の1960年に初演となりました。完成当初はイタリア・ミラノにて初演が企画されましたが、スペインでの初演を望む署名活動が活発となり、最終的にバルセロナのリセオ劇場にて初演が行われました。
初演では200名を超える合唱団と、溢れんばかりの聴衆が会場に訪れ、本作の完成を祝福しました。
無事に初演を迎えた本作ですが、作品に満足できなかったアルフテルは1976年に大幅な改訂を施し現在の形となりました。完成後の上演時間は概ね80分です。
構成と配役
アトランティス伝説やヘラクレスの物語を中心としたギリシャ神話、そしてコロンブスによる新大陸の発見をテーマとした非常にユニークな本作は、序曲・イスパニア賛歌と3部からなる物語で構成されています。おもな登場人物は次の通りです。
・語り手
・ピレーネの女王
・イザベル女王
・大天使
・宮廷の女官
・イザベルの女官
・プレアデスの7人の姫(ギリシャ神話に出てくる7人の姉妹)
・3つの頭を持つ怪物ゲリオン(ギリシャ神話に登場する怪物)
まとめ
ファリャの代表作『三角帽子』と『アトランティーダ』について解説しました。どちらもファリャ特有の情熱とダイナミックな展開が楽しめる作品だと思います。これまでファリャの作品を聴いたことがない方も、この記事を機会にファリャの作品に触れてみてはいかがでしょうか。情熱的で心踊る旋律に、きっと夢中になると思いますよ。
>>マヌエル・デ・ファリャってどんな人?出身やその生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?
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