パウル・ヒンデミット『白鳥を焼く男』『画家マティス』の解説・分析。楽曲編成や聴きどころは?

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20世紀のドイツを代表する作曲家にパウル・ヒンデミットがいます。さまざまなジャンルを手がけたヒンデミットの作品は、ピアノ曲や室内楽曲、歌曲やオペラなど多岐に渡り、生涯で600曲もの作品を残しました。とくに今回紹介する『白鳥を焼く男』やオペラ『画家マティス』は、彼の音楽家人生を代表する作品であると同時に、大事件を起こすきっかけとなった作品でもあります。

そこで今回は、ヒンデミットを代表する2作品について解説します。

『白鳥を焼く男』について

ヴィオラ奏者としても名声を獲得したヒンデミットの「ヴィオラ協奏曲」です。「ヴィオラと小オーケストラのための古い民謡にもとづく協奏曲」という副題がつけられており、バルトークなどの作品と並び20世紀を代表するヴィオラ作品と称されています。1935年に作曲され、ヒンデミット自身により初演されました。

全3楽章で構成され、吟遊詩人が歌う姿をヴィオラが、聴衆が歌を聴く姿をオーケストラで表現していると言われています。また本作は、ドイツ民謡がモチーフとして登場するのが大きな特徴です。

本作は後述する「ヒンデミット事件」の真っ只中に書かれた作品のため、「退廃音楽」というレッテルを避けるためか、調性の強い作品となっています。第2楽章中間部では対位法を用いた美しいフーガが使われており、バッハの影響を垣間見られるでしょう。

それぞれの楽章には作品を象徴する美しいタイトルが付けられています。

1楽章、「山と深い峡谷の間で」
2楽章、「いざその葉を落とせ、小さな菩提樹」
3楽章、「あなたは白鳥の肉を焼く人ではありませんね?」による変奏曲

白鳥を焼く?

タイトルの「白鳥を焼く」に驚いた方もいるのではないでしょうか?
調べたところ、大昔のドイツでは実際に白鳥を捕えて食べていたのだそうです。
食べられるのかどうか不思議な気がしますが、カール・オルフの『カルミナ・ブラーナ』の第2部「居酒屋にて」でも焼き白鳥が登場するので、そのような習慣があったのものと推測されます。

楽器編成について

・フルート(2)
・オーボエ(1)
・クラリネット(2)
・ファゴット(1)
・ホルン(3)
・トランペット(1)
・トロンボーン(1)
・ティンパニ
・ハープ
・チェロ(4)
・コントラバス(3)

オペラ『画家マティス』とは

1934年から1935年にかけて作曲された、ヒンデミットをもっとも代表するオペラです。本作は、大指揮者フルトヴェングラーの勧めで作曲されました。タイトルの『画家マティス』とは、16世紀の画家マティス・ゴートハルト・ナイトハルトのことであり、本オペラは、このマティスを主人公として物語が展開します。

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「画家マティス」と聞くと、20世紀のフォービズム(野獣派)のアンリ・マティスを連想しがちですが、そちらのマティスではないのでご注意ください。

当初は『エルティエンヌとルイーゼ』というオペラを作曲する予定でした。しかし作品内容がフランス人捕虜とドイツ娘の恋愛を描いたものだったため、ナチス政権では上演できないと判断したヒンデミットは、考えを改め『画家マティス』に変更した経緯があります。

現代オペラとしてはかなりの大作です。全7場で構成され、上演時間はおよそ3時間にも及びます。「ヒンデミット事件」により本国ドイツでは初演できず、1938年にチューリッヒにて初演されました。

交響曲版が先に大ヒットとなる

上述の通り、オペラ版『画家マティス』はドイツ本国で初演を迎えられませんでした。
しかしオペラ上演に先駆けた1934年、作中曲を再構成した交響曲版『画家マティス』が初演され、大成功を収めました。

交響曲版は全3楽章となっており、それぞれに標題が付けられています。
1楽章「天使の合奏」・・・オペラの前奏曲と序奏付きのソナタ、「3人の天使が歌う」というドイツ民謡が用いられている。
2楽章「埋葬」・・・オペラ第7場からの転用と間奏曲が引用されている。
3楽章「聖アントニウスの誘惑」・・・画家マチスが見る幻想の再現

ヒンデミット事件について

交響曲『画家マティス』が成功を収めたものの、このことが音楽史上に残る大事件へと発展します。当時のヒンデミットは、ユダヤ人演奏家と3重奏団を結成し、演奏や録音活動を行っていました。

しかしこれを耳にしたヒトラーは、ヒンデミットに対して厳重な措置を取り、オペラ版『画家マティス』の上演を禁止します。

この措置に対し猛烈に抗議をしたのが、指揮者フルトヴェングラーでした。ヒンデミットを擁護する立場をとったフルトヴェングラーは、ドイツ一般紙に「ヒンデミット事件」と評する論評を掲載し、その後デモに発展するというセンセーションを巻き起こします。
最終的には1935年に、ナチスとフルトヴェングラーの「仮の」和解により落ち着きを取り戻しましたが、これ以降「ヒンデミット事件」は音楽史に残る大事件として語り継がれるようになります。

まとめ

ヒンデミットの代表的オペラ2作品を解説しました。どちらも厳しい時代に書かれた作品ですが、音楽に欠かせない普遍性を備えた作品です。モチーフとなった物語も興味深く、物語だけでも読んでみたくなる作品だと思います。

オペラで見る機会はあまりないかもしれませんが、今回の参考動画でその内容をぜひ確認してみてください。20世紀のクラシック音楽の新たな側面が見られると思いますよ!

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