武満徹 ノヴェンバー・ステップスの解説・分析。その魅力や聴きどころは?

出典:[amazon]20世紀傑作選②〜武満徹:管弦楽曲集

クラシック音楽、映画音楽、舞台音楽など多岐にわたるジャンルを手がけ、世界的な音楽家として活躍した武満徹。武満の作品には「弦楽のためのレクイエム」や「エクリプス」「小さい空」「海へ」など多くの代表作があります。今回はその中から武満の名前を世界的なものへと押し上げた「ノヴェンバー・ステップス」をご紹介します。琵琶と尺八という日本独自の楽器とオーケストラを融合させたこの作品は、音楽の新たな可能性を開き今日でも世界中の聴衆に愛されています。

武満徹の生涯


武満は、1930年東京都に生まれました。若いころからドビュッシーやラヴェル、メシアンなどのフランス音楽を好み、生涯その好みは変わりませんでした。ほぼ独学で作曲を学び、作曲家になるために東京音楽学校(現東京芸術大学)を受験しましたが、受験を放棄。自分の道を歩むことを決めました。

20歳で作曲家デビューを果たしたものの、世間の評価は良いものではありませんでした。武満はそのことに大きなショックを受けましたが、その後も芸術活動に参加するなど、積極的に音楽活動に取り組みました。1957年には武満の代表作「弦楽のためのレクイエム」を発表し、翌年には作曲コンクールで入賞するなど、少しずつ作曲家としての業績を積み重ねていきました。

世界的名声を得た後も、武満の作曲活動は衰えることなく、クラシック音楽の他に映画音楽の作曲や海外の大学の客員教授を務めるなど、さまざまな分野で活躍しました。晩年は唯一作曲していなかったオペラの制作へ意欲をみせましたが、その夢が叶うことなく、1996年病のためこの世を去りました。

ノヴェンバー・ステップスとは

ノヴェンバー・ステップスは、1967年に武満徹によって作曲された琵琶と尺八のためのオーケストラ曲です。この作品以前にも、武満は琵琶と尺八を使った「エクリプス」という曲を発表しており、「エクリプス」が「ノヴェンバー・ステップス」への足掛かりとなったと言われています。邦楽の世界でも琵琶と尺八を同時に用いた曲はなかったことから考えると、「エクリプス」と「ノヴェンバー・ステップス」が当時いかに画期的であったかが分かります。

「ノヴェンバー・ステップス」は、ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団の創立125周年を記念する曲として、バーンスタインの依頼によって作曲されました。依頼された当初は大喜びだった武満でしたが、邦楽器と西洋音楽の融合にはかなり苦労したようです。初演は1967年11月9日、ニューヨークへ鶴田錦史(琵琶)と横山勝也(尺八)を迎え、小澤征爾の指揮で演奏されました。

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この曲を作曲するにあたり、武満は西洋音楽と尺八を対比させて次のように述べています。
「洋楽の音は水平に歩行する。だが、尺八の音は垂直に樹のように起る」
この言葉から、西洋音楽と邦楽器を使った「ノヴェンバー・ステップス」の完成が、いかに困難であったかがうかがえます。

ノヴェンバー・ステップスの分析

この曲で興味深いのは、オーケストラの舞台配置です。弦楽器のパートを舞台の左右2つに分けて、さらにその奥に打楽器を左右に置いています。舞台中央には木管楽器パート、その奥に金管楽器パートを配置しており、指揮者の前にはハープが置かれています。左右に楽器を配置して音を際立たせることにより、音楽が立体的になる効果を狙ったものです。この音楽を立体的に表現するという試みは、武満が敬愛していたドビュッシーの作品から影響を受けたものと考えられます。

「ノヴェンバー・ステップス」というタイトルは、この曲の初演が11月(ノーヴェンバー)に決定されていたことに由来し、ステップスは邦楽器で使われる節単位「段」からきたものとされています。また琵琶と尺八のカデンツァ部分(即興演奏部分)が円形楽譜で書かれているのも、現代音楽ならではです。

琵琶や尺八の音の障り(ノイズ)を最大限に生かしながら、オーケストラという西洋音楽との調和と対比を表現した点が、この曲の特徴です。

魅力や聴きどころ

ノヴェンバー・ステップスの魅力は、なんといっても琵琶と尺八の掛け合いです。冒頭部分の静かなオーケストラが流れた後、尺八の音色が会場全体に響き渡ります。尺八に続くように琵琶の音が1つ、また1つと重なります。やがてオーケストラと合流し、西洋音楽と邦楽器が溶け込み合い、ときには対比しながら展開されます。

聴きどころは、後半部分の尺八と琵琶の独奏部分です。音楽的掛け合いという枠を超えた、ある種の格闘とも言える構成が聞く人の心を圧倒します。この格闘が終わると再びオーケストラと合流し、最後は会場全体の空気を切り裂くような尺八の一息で終わります。「ノーヴェンバー・ステップス」という作品は、「静と動」を繰り返しながら会場全体に独特の世界観を生み出す音楽装置のような作品です。

まとめ

今回は武満徹の代表作「ノヴェンバー・ステップス」をご紹介しました。琵琶と尺八のためのオーケストラという珍しい作品ですが、作品の中には西洋音楽と邦楽器の融合と対比が表されています。武満徹の名前を世界に広めた傑作を、ぜひ1度聴いてみてください。きっと、新たなクラシック音楽の面白さを味わえると思いますよ。

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