出典:[amazon]Piano Transcriptions
19世紀に生まれ「ロシアの5人組」の1人として活躍したツェーザリ・キュイ。キュイは作曲家としてデビューしたものの、音楽活動を「余技」(アマチュア)とし、もっぱら軍人教育や評論活動をしながら作曲しました。「余技」とはいえ、その作品数は膨大で、ジャンルもピアノ曲や室内楽、歌曲、オペラなど多岐に渡ります。なかでもオペラに力を注いだキュイは、生涯で15曲の作品を残しています。今回はそのなかから2つのオペラを選び、皆さんに紹介します。
「マンダリーナの息子」について
同じ「ロシアの5人組」でもリムスキー=コルサコフやボロディンのように大ヒット作を残せなかったキュイ。しかし生涯にわたり作曲に取り組み、亡くなる前年まで作曲していました。「マンダリーナの息子」はそんなキュイが20代で書いた作品です。
最初は家族向けに作曲された
1859年に作曲されたこのオペラは、もともとは公開が目的ではなく、家族向けに作曲された作品です。作品の初演もキュイの親戚のアパートでした。もちろんオーケストレーションなどなく、ピアノ伴奏のみの初演でした。
初演のエピソードとしては、この作品の登場人物である上級役人を演じたのはムソルグスキーだったと言われています。また、同じく登場人物の宿屋の娘を演じたのはキュイの妻ミリヴィーナでした。
フランス音楽的作品になったわけ
作曲から19年後の1878年、バラキレフの編曲により、ようやく一般公開となった本作はサンクトペテルブルクにて初演が行われました。キュイの作品は他の「ロシアの5人組」ほど民族主義的作風ではなく、この作品もフランスの作曲家フランソワ・オーベールの影響を受けた影響で、メロディーラインの美しい作品となっています。ちなみにフランソワ・オーベールはフランスのオペラ・コミックの第一人者でした。
残念ながらキュイの死後は演奏される機会がなくなりましたが、1998年に再演されています。また「マンダリーナの息子」は妻のミリヴィーナに献呈されていることから、辛口評論家キュイは、意外に愛妻家だったのかもしれません。
あらすじ
中国が舞台となっている不思議な作品です。中国を舞台とした経緯について調べてみましたが詳しいことはわかりませんでした。
舞台は中国の宿屋。宿屋の主人は、愛娘のレディが使用人に好意を抱いているのに気がつきます。娘の関心をそらすために、使用人に出て行くように命ずる主人。宿屋を出るかレディを取るかで苦悩する使用人ですが、ある日、宿屋に上級役人の男が尋ねてきます。話を聞いてみると、なんでもその役人は生き別れになった息子を探しているとのこと。
そして探している息子というのが、出て行くよう命じられた宿屋の使用人であることが判明します。
「アンジェーロ」について
1871年から1875年にかけて作曲された全4幕からなるオペラです。「ロシアの5人組」はプーシキンや地方民謡から題材を得ることが多かったですが、この作品はフランスの文豪ヴィクトル・ユゴーの散文詩「パドヴァの僭主(暴君)アンジェロ」を基に作曲されました。ユゴーといえば「レ・ミゼラブル」の作者ですね。
「パドヴァの僭主(暴君)アンジェロ」は、1835年にコメディ・フランセーズで散文劇として上演されていたので、キュイはそこからヒントを得て本作を作曲したのかもしれません。
1876年にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演され、指揮はエドヴァルド・ナープラヴニークが担当しましたが、劇場のシーズンには残れなかったそうです。
大成功というわけではなかった
ヒット作品に恵まれなかったキュイですが、このオペラもあまり人気がでなかったようです。バラキレフからオーケストレーションの「未熟さ」を指摘されていたキュイの技量は、大作に向かなかったのかもしれません。発表後もシーズンに残ることはなく、劇場のレパートリーから外されました。
しかし初演から25年後の1901年に再演されたことから考えると、完全に忘れ去られた作品でもなかったのかもしれません。
登場人物の1人を伝説の歌手が担当
20世紀初頭に再演された「アンジェーロ」ですが、登場人物の1人を勤めたのがロシアが生んだ世界的声楽家フョードル・シャリアピンでした。シャリアピンと聞いて「お肉料理?」と思ったかたもいるでしょう。
「シャリアピンステーキ」とは、来日中のシャリアピンが歯を痛めていたため、そんなシャリアピンでも食べられるように肉を薄く叩いて食べ易くしたことから名付けられました。
あらすじ
パドヴァを舞台とした、総督のアンジェーロ、アンジェーロの妻カタリーナ、アンジェーロノ愛人ティスペ、貴族の息子ロドルフォの4人を取り巻く愛憎悲劇です。そこにアンジェーロのスパイであるガレオファが加わり、物語に一層の緊張感を生みだします。
ロドルフォの愛を手に入れるためにライバルの毒殺を計画するティスペ。一方でアンジェーロの妻カタリーナだけを愛するロドルフォ。物語は、カタリーナを毒殺したと勘違いしたロドルフォがティスペを殺害して幕を閉じます。
まとめ
今回はキュイのオペラ2作品を紹介しました。ほとんど忘れ去られている作品だと思いますが、キュイの創作活動を知る上では重要な作品だと思います。ヴェルディやワーグナーなどのような誰もが知るオペラは残っていませんが、一つの深い教養として今回の記事がみなさまのお役にたてば幸いです。
>>ツェーザリ・キュイってどんな人?その生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?
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