指揮者になるには?向き不向きはある?なるために必要なスキルは何?

みなさんの周りに指揮者と呼ばれている人はどれくらいいますか?おそらく、あまり身近な職業ではないと思います。なにせオーケストラを見ても、あれだけ楽器奏者がいる中で指揮者はたったひとりしか舞台に上がっていないのです。
プロの演奏家になるのももちろん大変なことですが、指揮者となれば一体どんな人がどんな道を経てプロになるのでしょうか?
ひと口に指揮者といっても、合唱の指揮者、吹奏楽の指揮者と様々なジャンルがありますが、ここではオーケストラ(管弦楽団)の指揮者について触れていこうと思います。

指揮者になるには?

幼少のころ

成功を収めている指揮者の多くは小さいころから何かしらの楽器の訓練を始めています。特に、ピアノを学んだ後に指揮者になる人が多いようです。ヨーロッパでは、指揮者の中にはピアニストとして活躍できるくらい技術を持った人が大勢います。(日本ではそれほど重視されない場合もありますが)指揮者にとってピアノの技術は欠かせないと言っても過言ではありません。
また、たびたび「指揮者は絶対音感がある」と言われるように、鋭い聴覚を養うことも大切です。絶対音感が必要なわけではありませんが、小さいうちに新曲視唱や聴音の訓練をして、正確な音感を身につける必要があります。
反面、実は指揮の技術については幼少期から学ぶ必要はないとされています。ほとんどの場合、音楽大学の指揮科の入学試験では、指揮の技術よりもソルフェージュや楽器の演奏技術が重視されます。

音楽大学

職業指揮者の先駆けとされるハンス・フォン・ビューローは音楽大学を卒業していません。モーツァルトやベートーベンといった過去の偉大な作曲家たちも、もちろん音楽大学を卒業していません。しかし、現代では音楽大学を経ずにプロの指揮者になることはまずありえません。必ずしも指揮を専門で学ぶ必要はありませんが、現代活躍している指揮者は必ず音楽大学で、指揮でなくても、楽器演奏や、あるいは作曲を修めています。
では、実際に音楽大学の指揮科に入学したら、どんなことを学ぶのでしょうか?

指揮のレッスン

音楽大学ではおおよそ週1回、1時間、本科のレッスンがあります。指揮科の学生も同様にレッスンを受けます。もちろん、オーケストラ相手ではなく、ピアノに向かって指揮をするという方法がとられます。

特に指揮の訓練には楽器のように決まった課程がなく、ここでどのようなレッスンが行われるのかは、すべて担当の先生次第というところです。中には斎藤指揮法と呼ばれる有名なメソッドに沿ってレッスンをする先生もいれば、ほとんど技術的なことには触れずに、楽譜の読み方や音楽の精神性に重きを置いて指導する先生もいます。

また、レッスン室から先生の怒声が聞こえてくることが多いのも指揮科の特徴です。今はもう少なくなりましたが、かつては、先生が投げた譜面や椅子が壁にぶつかる音が響くこともありました。前述のように、指揮者は人数が少なくて済む仕事です。やる気がないならさっさとやめてもらってかまわない、というのが教える側の基本的なスタンスです。近年、少子化で音楽大学も入学しやすくなり、学生にそれほど厳しくは接さない先生も増えましたが、指揮科はいまだに例外と考えるべきです。

基本的に、指揮の先生は暗譜をしてこない弟子がいるとそれだけで顔を曇らせます。器楽や声楽の学生も、試験前に暗譜をしますが、普段のレッスンから暗譜を強いられるのも指揮科の特徴でしょう。例えば、1週間で交響曲の楽章ひとつを隅々まで暗譜するのはなかなか骨の折れることです。

楽器の訓練

音楽大学でもやはりピアノが重視されます。他の学生たちも副科としてピアノを学ぶのですが、学校によって、指揮科の学生にはピアノ専攻の学生と同様のレッスン時間が与えられることもあります。例えば、ピアノの苦手な器楽科の学生がなんとか簡単な曲を弾いていてもそれほど問題にはなりませんが、指揮科の場合はそうはいきません。今まであまりピアノを学んでこなかった指揮者はここで大変な苦労をすることになります。

その他の訓練

声楽家同様、語学の訓練も指揮者には大切です。ドイツ語やイタリア語などを正しく発音して理解することができなければ、オペラを指揮することはできないでしょうし、外国語をあきらめるということは、海外のオーケストラと共演することをあきらめることになります。

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また、指揮科独特の授業として、スコアリーディングがあります。スコアを広げて、そこに書かれている全パートをピアノで演奏して、ひとりでオーケストラを奏でます。ハ音記号で書かれたパートや移調楽器のパートを瞬時に読み取る訓練です。

その他、音楽史、和声学、対位法などクラシック音楽に関わるすべての知識を身につけて、自分の指揮棒の動きに生かしていかなくてはなりません。

オーケストラを指揮する

指揮科の学生は日常的にオーケストラを指揮することができるのでしょうか?答えはノーです。大学にもよりますが、卒業試験の場で初めて公に学生オーケストラを指揮することができる場合がほとんどのようです。学校の方針で、1年時の試験からオーケストラを指揮することのできる大学もありますがまれです。ですから、中には仲のいい学生に声をかけて自分でオーケストラを結成して、独自に活動する指揮者もいます。

もし、自分の師匠に実力を認められたなら師匠の仕事の現場に連れて行ってもらえるようになります。大学の外で、実際の現場を見ることができる貴重な機会です。そこでは、師匠のかばん持ちや楽屋のセッティング、着替えの手伝いといった、まさに芸能人の付き人のような仕事をします。もしオペラの現場であれば、ピアノを使って演技の稽古をするときなどに指揮をする、副指揮者という仕事を任せてもらえることもあります。(当然、そのためには、楽譜に書かれてあるすべての歌を暗譜で歌えなくてはなりません)

このように経験を積みながら、例えば海外留学をしてよい成績を収めたり、コンクールで入賞したり、公演の指揮者に抜擢されたりして徐々に舞台に立つ機会を増やしていくのです。

指揮者は求められてなるものです。実力を磨き、経験を積みながら、「この人の指揮で演奏したい」と思われる人物になって初めて指揮者であると言うことができます。

まとめ - 指揮者に向き不向きはある?

最近でこそ、若手の指揮者も大勢活躍していますが、元々、四十代で若手、五十代で中堅と言われてきた世界です。努力の大変さに比べて一人前になるのに時間がかかる仕事であるのは間違いありません。また、舞台に立つ姿は華やかかもしれませんが、暗譜、楽曲の分析など、プロの指揮者になったあとも細かな作業を避けて通ることはできません。
向き不向きがあるとしたら、まずは継続して努力を続ける根気強さは不可欠だと言えるでしょう。

そして、指揮者というだけで奏者がすべて言うことを聞いてくれるわけではありません。指揮者だから尊敬されるわけではなく、努力を積み重ねてきた結果、尊敬に値する人が指揮者になると考えるべきです。当然、楽器奏者やプロダクションなどと意見がぶつかることもしばしばあります。例えば、オペラの稽古であれば、場面の解釈が演出家と異なったときは、必ず相談して意見を合わせる必要が出てきます。そんな時に、自分の意見を主張しているだけではやがて仕事もしづらくなっていきます。自分の意見はしっかり持ちながら、相手の考えや立場、気持ちも考慮して対応していく柔軟さも求められているように感じます。
しばしば、「指揮者はオーケストラという楽器を演奏する」と言われることもありますが、やはり人間を相手にする仕事ですので、楽器奏者だけではなく、すべての関係者に対する配慮が誰よりも求められるのです。そのため、他者に対する想像力とコミュニケーション能力が大切になってきます。そもそも、想像力が乏しければ、過去の作曲家が曲に込めたメッセージを読み解くのは難しいですよね。

さて、記事を読んでくださった方の中に、指揮者になりたいとお考えの方がいるかどうか分かりませんが、そうでなくても、もし、演奏会などで指揮者の姿を見ることがあれば、その手の動きや息遣いの中に、音楽に対する情熱を感じ取ってみてください。また、一味二味、音楽が味わい深いものになるでしょう。

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>>指揮者の存在意義。上手い下手の基準って何?いなかったらオーケストラはどうなる?

 

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